ポルノ・買春問題研究会
論文資料集10
2010年度の論文資料集10号。詳細はこちらより
 
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トップ  >  奥村弁護士を迎えて学習会を開催

10月20日に奥村徹弁護士を迎えて、「児童ポルノ・買春禁止法の現状と問題点」と題して、小学習会を開催しました。学習会には、スタッフメンバーの他に、一般向けメーリングリストに参加している3名の方も参加しました。 

奥村弁護士は、最初、児童ポルノ・買春禁止法で起訴された加害者の弁護を国選弁護人として担当したことがきっかけで、その後、同種の事件の加害者の弁護を数回担当しています。その関係で、この間、同法に関して現場での運用状況や裁判所の解釈などを実地に見聞されており、その現場の立場から同法の現状と問題点について語っていただきました。 以下、奥村弁護士の話された内容を箇条書きで紹介します。なお文責はあくまで私たちの会にあります。 

  • 児童福祉法淫行罪との競合問題……
    児童福祉法にもとづけば、児童(ポルノ買春禁止法と同じく18歳未満)に対して淫行させる行為には最大10年の懲役を課すことができる。児童ポルノ買春禁止法がなかった時代は、この法規に基づいて悪質な「買春」を処罰していたのだが、児童ポルノ買春禁止法ができたため、本来は児童福祉法淫行罪で処罰すべき事犯においても、刑の軽い児童ポルノ買春禁止法(最高3年の懲役)で立件する場合が増えた。奥村弁護士の調べによれば、平成11年には859人が児童福祉法淫行罪で立件されていたのに、平成12年には571人に激減している。 逮捕の理由が児童福祉法淫行罪の場合も、検察の判断で、より有罪をとりやすい児童ポルノ買春禁止法での起訴になる場合がしばしばある。このような事態になるのは、児童福祉法淫行罪と児童ポルノ買春禁止法では管轄する裁判所が違うので(児童福祉法淫行罪は家庭裁判所、児童ポルノ買春禁止法は地裁)、児童福祉法淫行罪で起訴した場合家庭裁判所で「管轄違い」という判決が出る可能性があり、その場合、検察の面子が丸つぶれになり、また加害者もいったんは釈放になってしまうので、両罪が併合する場合、検察はより安全な児童ポルノ買春禁止法違反で起訴する傾向にある。 ある例では、加害者の側が、お金を最初から払うつもりがなかったのに、百万円程度払うからとだまして被害者の女子高生をポルノに出演させ、結局、一銭も金を支払わなかった事件があった。これは金の授受がなかったのだから、騙して淫行に及んだということで準強姦罪が、あるいは児童福祉法淫行罪が成立してもよさそうな事例であるにもかかわらず、検察は児童ポルノ買春禁止法で起訴し、2年足らずの軽い判決ですんだ(奥村弁護士は高裁で加害者弁護を担当)。 それゆえ、どの場合に児童ポルノ買春禁止法が妥当し、どの場合には児童福祉法淫行罪が妥当し、どの場合に刑法の強姦罪(準強姦罪)が妥当するのかをきちんと法的に整理する必要がある。また、裁判所の管轄問題を解決しないと、この場合のように管轄違いの法律が競合しているかぎり、今後とも同じような問題が起きてしまう。 
  • 保護法益の不明確さ……
    児童ポルノ買春禁止法では第一条で被害者本人の保護をうたっており、個人的法益を保護しているような構成になっているが、子どもポルノ販売・頒布規制の条項では、現行の刑法第175条わいせつ規制条項と同じ文章が流用されている(わいせつ規制の保護法益は「善良な性風俗」であり、被害者のいない犯罪の典型とされている)。そのため、保護法益に関して、検察側にも裁判所側にも混乱が見られる。現在の裁判所の判断では、子どもポルノの販売・頒布に関しては、被害者の個人的法益が保護の対象とされないという場合が多く(社会的法益説)、そのため、1種類の子どもポルノを5人ぐらいに販売しても、100種類の子どもポルノを1万人に販売しても、同じ重さの罪とされるということが起きてしまう。したがって、保護法益を被害者個人にする方向で統一させる必要がある。 
  • 被害者保護の不十分さ……
    上の事柄とも密接に関連しているが、現行法には被害者の保護もうたわれているにもかかわらず、具体的な保護の措置が現場ではほとんど取られておらず、被害者がそのまま放置されている場合が多い。 最近、被害者保護のために、裁判所でビデオリンク方式が導入されているが、このビデオリンク方式は児童ポルノ買春禁止法に関してはこれまで一度しか利用されていないこと、また施設と予算の関係上、ビデオリンクの設備があるのは一部のみであって、児童ポルノ買春禁止法が審理される普通の地裁レベルでは設備そのものがない、という問題もある。 
  • 単純所持規制の前に「譲渡罪」の検討が必要……
    現在の児童ポルノ買春禁止法では、「販売・頒布」が禁止されているが、これはすでに述べたように、刑法のわいせつ規制の規定を流用したものであり、それに準拠した現在の解釈では、これは「不特定ないし多数」に販売ないし頒布した場合のみ犯罪要件になる。それゆえ少数かつ特定の相手に対しては、たとえ販売しても「販売罪」にあたらないとことになる。それゆえ、「譲渡罪」「譲授罪」を設けることなく「単純所持罪」を導入すると、相手に譲渡しても罪にならないが、ただ持っている場合には罪になるという奇妙な現象が起きかねない。罪自体の性質からするなら単に持っているよりも他人に譲渡するほうが犯罪的なはずだが、現行法規の現行解釈のもとに単純所持規制を導入するとそういうちぐはぐなことになる。 
  • 国外犯処罰の問題……
    現行の児童ポルノ買春禁止法では国外であっても邦人が子ども買春をした場合や子どもポルノを製造した場合は、この児童ポルノ買春禁止法で処罰することになっているが、その処罰の重さを見ると、日本の法律は世界的に最も軽いものなので、国外で犯罪を犯した加害者がわざと国内法で裁かれるようとするケースがある。その場合、本来は国外法で10年近い刑罰になるようなことをしていても、国内で裁かれて2年前後の判決になる。 また、国内法で裁く場合、証拠集めや被害者調書の入手が必要不可欠になるが、日本の警察は国外犯を捕まえるために必要な体制を何らとっていないし、国外の警察が取った調書が入手できるのに半年もかかる。その間に、証拠隠滅などの工作をすることができる。さらに、せっかく調書を入手しても、被害者は国外にいるので、弁護士側が被害者への尋問を要求しても、被害者尋問ができないので、弁護士側はそのような調書を証拠として採用することを拒否する(不同意)ことができる(日本の刑事訴訟法の問題)。それゆえ、せっかくの調書が無駄になるということがしばしばあり、日本での裁判は加害者に有利なように進んでしまう。 
  • サイバー犯罪条約との整合性……
    日本政府が署名したサイバー犯罪条約によれば、子どもポルノをメールで送信することを処罰する規定があるが、すでに述べたように、日本での児童ポルノ買春禁止法では「不特定ないし多数」に販売・頒布した場合のみ罪となるので、「不特定ないし多数」という限定のない「メール送信罪」との関係が整合的でなくなってしまうという問題がある。つまり、現物ないしデータの入ったフロッピーやCDを郵便物で送ったり、直接譲渡しても罪にならないが、同じ内容のものを電子データとしてメールで送信すると、罪になる。  以上のようなさまざまな不備や混乱が生じている理由は、
    1. 同法が議員立法であったため、運用現場の常識や他の法律との整合性を十分踏まえずに法制定されたこと、
    2. 各党の案の折衷であったため、いろいろな要素がごちゃごちゃになっていること(とりわけ保護法益に関して)、
    3. 早急につくって施行しなければならないという事情から細かい部分やあるいは被害者保護の体制作りが十分になされていないこと、などがあると考えられる。 

以上の点から、法改正に関しては、単純所持規制とアニメ漫画規制の問題だけにとどまらず、法律を全体として見直して、本当に法の目的に資するような改正および、それに見合った体制作りが必要ではないか。また、アニメ、漫画、CG規制に関しては、現行法に持ち込むと保護法益との関係で混乱が増幅される可能性があるので、別法での規制が望ましい。 以上が、奥村弁護士の報告およびその後の質疑応答の中で出された主要な論点でした。会の立場と一致する部分もそうでない部分もありましたが、全体として非常に有意義な情報が提供され、参加者の認識を深めることができました。

被害事実をご存じの方は、情報をお寄せください
ポルノグラフィによる人権侵害は想像よりはるかにたくさん生じていると考えられます。例えば、市販されているポルノ・ビデオからは、制作過程ですでにひどい人権侵害が行なわれていることを見てとることができます。

私たちは、ポルノグラフィによる被害を防止し被害者を支援する制度づくりをめざして、ポルノグラフィによる人権侵害の実態を明らかにする活動に取り組んでいます。被害事実をご存じの方は、どのような情報でもかまいませんので、研究会までお寄せください。
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