児童ポルノ事犯の検挙状況
警察庁は18日、インターネット上にはんらんする児童ポルノ根絶に向けた重点プログラムを策定した。画像の児童の特定を急ぎ、捜査と被害者支援に生かすため、児童ポルノの画像分析を専門に行う班を設ける。インターネット・サービスプロバイダー(ISP)らによる自主的なブロッキングも来年度以降実施の見通しで、その際に児童ポルノが掲載されたサイトのアドレスなど捜査で得られた情報を提供することも決めた。【千代崎聖史】
<h2>認知件数</h2>
警察庁によると、08年に児童ポルノ禁止法違反容疑で逮捕・書類送検された件数は、前年比19.2%増の676件。被害児童は同22.9%増の338人で、いずれも過去最多だった。しかも、ネット上には被害児童が特定されない児童ポルノ画像が多数存在し、回収が難しい実態がある。
<h2>捜査手法</h2>
重点プログラムの柱は、(1)取り締****(2)画像の流****(3)潜在化しがちな被害児童の支援??の3点。取り締まり強化の取り組みとして、警察庁少年課内に2人の画像分析班を設け、画像の中の服装や言葉、背景などから被害児童を特定する。態勢は今後、増員を検討する。また、米連邦捜査局(FBI)など外国捜査機関で職員を研修させ、最新の捜査手法を学ぶ。
画像の拡散防止のため、インターネット・ホットラインセンターを通じてサイト管理者などに削除依頼を続ける。また、今後、児童ポルノのアドレスリストを提供する官民共同の団体が設立される見通しだが、設立され次第、流通防止対策に取り組む事業者らに捜査情報を提供してスムーズなブロッキングにつなげる。
被害児童支援策では、児童側から被害申告をしにくい実情を踏まえ、被害児童が特定できた場合の聴取方法や立ち直り支援について、臨床心理学の専門家らの協力を得て今後検討していくとした。
<h2>ブロッキングとは</h2>
インターネットにアクセスするサービスを提供するインターネット・サービスプロバイダー(ISP)の段階で、ネット利用者が特定のサイトやウェブページに接続するのを遮断して閲覧不可能にする措置。英国やイタリア、スウェーデン、米国など欧米諸国では児童ポルノ対策として広く実施されている。
<h2>コピー連鎖絶てぬ被害…所持だけで処罰できず</h2>
児童ポルノの画像はいったんサイバー空間に流出すればコピーが繰り返され、被害は永遠に続くとされる。しかし、画像を持っているだけで処罰することはできず、捜査には壁も立ちふさがる。
<私は大学生です。5歳から11歳頃(ごろ)まで、叔父に性的な虐待を受け、写真に撮影されました。インターネットの使い方を覚えてからは、日本人だけでなく外国の子供たちが写っている児童ポルノを目にして、背筋が寒くなり、何度も嘔吐(おうと)して泣きました>
日本ユニセフ協会のホームページに掲載されている被害者の声だ。捜査関係者は「画像を見るたび胸が張り裂ける思いだが、現行の児童ポルノ禁止法では画像を所持しているグループを追いかけきれない」と嘆く。与党と民主党がそれぞれ、改正案を提出しているが論議は進んでいない。
<h2>画像所持事案</h2>
06年、埼玉と宮城県警が摘発した元自衛官、漫画家らによる事件。ロリコンサイトなどで知りあったメンバーはネット上の画像を交換していたが、飽き足らなくなる。メンバーらは「『レア物(日本人児童や強姦(ごうかん)もの)』や『オリ画(オリジナル画像)』を提供できると『神』とあがめられる」と供述したという。こうした動機を背景に強姦や強制わいせつ事件を現実世界で繰り返したとされる。被害者となった児童生徒は16人に及んだ。
捜査幹部によると、画像をやり取りしていたのは数十人だが、逮捕者16人を除くメンバーは罪を問われなかった。幹部は「提供罪の時効が3年と短いのも障害だったが、単純所持があれば摘発できた可能性はある」と話した。【千代崎聖史】
毎日新聞 2009年6月18日