東京新聞 2022年5月18日
アダルトビデオ(AV)の出演被害救済に向け、超党派議員が法案の素案をまとめた。しかし、その内容には、売春防止法が禁止する「性交」を事実上、合法化するものだ、との指摘も出ている。
懸念が解消されないまま法制化を急げば禍根が残る。本来の目的である十八、十九歳の被害を救済するため、契約「取り消し権」の復活を先行させてはどうか。
新法の議論は改正民法の四月施行で、成人年齢が十八歳に引き下げられたことを機に始まった。
民法には、未成年者が親の同意なく結んだ契約は無条件に取り消せる規定があるが、新たに成人になった十八、十九歳は保護対象でなくなり、AVへの強引な出演契約などによる被害が若年層に広がる恐れが生じたためだ。
自民、公明、立憲民主などが合意した法案の素案は、すべての年齢を対象に、被害者が申し出れば契約を自由に解除でき、解除期間は原則一年以内(施行後二年は二年間)▽出演契約を交わして一カ月を経過しなければ撮影できない−などの内容。虚偽の説明や威迫行為をした制作者や法人には懲役や罰金を科す。
日本にはAV制作について規制する法律がなく、判断能力の不足や貧困につけ込まれた被害も多発してきた。AVを明文化して規制する法制化の動きに、一定の意義は見いだせるだろう。
しかし、被害の現状を変える一歩になるとの評価の一方、懸念の声も上がっている。
その一つが、性行為が営利対象となることに、国がお墨つきを与える恐れがある、との指摘だ。
法案の内容は、性暴力や性搾取を受けた被害者の支援団体などの指摘を受けて修正はされてはいるものの、AVの定義には「性行為にかかる人の姿態を撮影した映像…」と、実際の「性交」を前提とするような文言が残されている。
自公や立民は法案を議員提出して、今国会での成立を目指す、という。売防法を骨抜きにする恐れのある法整備を急ぐべきではないが、問題の放置も許されない。
この際、原点に立ち返り、成人年齢の引き下げで保護対象から外された十八、十九歳の救済を優先させるべきだ。
その後、被害者の支援団体などから幅広く意見を募り、女性たちの人権、性を守る包括的な法整備に取り組むことを提唱したい。