ポルノ・買春問題研究会
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ポルノ被害 : AV問題 「パンドラの箱」開いた 支援団体に聞く・上 (2017.02.08)

日時: 2017-02-09  表示:430回

毎日新聞 2017年2月8日 12時47分(最終更新 2月8日 16時47分)

 「アダルトビデオ(AV)への出演を強要された」と訴える人らの相談支援を行っている民間団体「ポルノ被害と性暴力を考える会(PAPS)」の中心メンバー、金尻カズナさん(35)と、同会世話人でフリーソーシャルワーカーの宮本節子さん(73)が毎日新聞の動画インタビューに応じ、これまでの活動やAVにまつわる問題の背景などについて語った。

 昨年3月に人権団体が強要被害に関する報告書を公表して以降、問題がさまざまな媒体で取り上げられ、業界の実情などが相次いで告発されてきた過程について、金尻さんは「パンドラの箱が開いた」と表現。「出演者と事業者の圧倒的な格差を逆転させる必要がある」として、法規制の必要性を強調した。

 昨年末、相談者の肉声などをまとめた書籍「AV出演を強要された彼女たち」(ちくま新書)を出版した宮本さんは「ノーと言えない性格の人が狙われやすい」と指摘。また「男女の力関係が極端に非対称になっている社会全体の問題でもある」として、消費者側の指向性についてももっと議論すべきだと訴えた。

 上・下2回に分けて紹介する1回目は、相談の状況や被害者像などについて2人の実感を聞く。「下」ではそれらを踏まえ、問題の背景事情や解決策などを探る。【AV問題取材班】
“パンドラの箱”が開いた

 −−どのような支援活動をしているのか、改めて教えてください。

 金尻さん 2009年にソーシャルワーカーや研究者らが一緒になって設立したPAPSと、「人身売買」の被害に取り組むNPO法人・ライトハウスが出合い、15年から共同支援事業を始めました。ボランティアとフルタイム、計約10人のスタッフがいて、AV被害や児童ポルノ、リベンジポルノ、性風俗で半ば意に反して働かされている人などの相談支援をしています。具体的には、困っている人からコンタクトがあった時に面談を行い、弁護士や警察などの社会資源につなげるだけでなく、問題の終結まで寄り添いながら伴走していきます。

 −−AVに関する被害の相談状況は?

 金尻さん 13年は1件でしたが、14年は36件、15年は62件、16年は98件の相談がありました。終結までは最低で半年、長いと2年ほどかかります。リアルタイムで(スタッフが)動いている相談者は40人以上。今年に入って(1月11日時点で)3件増え、とにかく今は大変な状況です。

 −−特に昨年は社会問題として大きく取り上げられ、支援活動も注目されました。

 金尻さん ある種の“パンドラの箱”だったのではないかと思います。10年ごろ、業界側は「被害がない」「クリーンとは言わないけど、ホワイトだ」などと主張していましたが、私たちのところに来る相談はかなり深刻なものでした。じゃあ、訴えたらいいかというと、相手は年商100億円などの企業ですから、お金もない相談者は訴える力をそがれてしまうという構造的な問題があります。手口も巧妙かつ先鋭的になっており、私たちも「法律を変えなくちゃいけない」と訴えたり、使える法律を探してアプローチしてみたり、あきらめないで2年間突っ走ってきました。

 宮本さん まさにパンドラの箱を開けてしまった感じです。私たちも「ポルノグラフィーの製作現場で性暴力的なことがなされているのではないか」という理屈は立てられていましたが、現実をあまり知らなかった。それを彼女たち(相談者)がリアルに教えてくれました。一つ一つの事例が千差万別なので、どうしたら彼女たちが納得できるのか、試行錯誤しています。
相談者に共通する「自責の念」

 −−宮本さんの著書「AV出演を強要された彼女たち」には、「その日の住まいを見つけなければならない」などかなり緊急性の高い相談事例も登場します。

 金尻さん 今日とか明日(に逃れたい状況がある)という話は昨年だけで10件ほど。12月には「明日、撮影会モデルの仕事がある。ヌード撮影に応じざるを得ない」という相談もありました。「撮影会」とは、AVの撮影前に行うプロモーション活動で、裸に慣れさせるのも目的です。プロダクションは、女性を言いくるめて裸にすることにたけている。時にはほめて、時には脅して、その繰り返しで、人って簡単に支配できるんだなと感じます。特に20歳前後の方は「契約したものは絶対に履行しなくてはいけない」という思い込みがある。重要事項を詳細に説明していない契約は、有効性に問題があるのですが、「やらなくてはいけない。でも困っている」というところから相談が始まるんです。

 −−同書では、相談に来る人が「被害者という認識がない」「自分も悪いと思っている」ということも強調されていますね。

 宮本さん びっくりするんですよ。自分でネットを検索してプロダクションを見つけ、サインをした人もそうですが、スカウトを受けた人も「タレント・モデルになりたい」という気持ちがあって積極的についていったというプロセスがあり、暴力的に拉致されたわけではない。何らかの形で自分の意思が関与しているので、すごく自責の念があるんです。「自分に責任があるんだけど、とにかく困っているから助けてください」「こんな私でも相談に乗っていただけますか」といった調子の相談が、昨年前半くらいまで多かった。(報道などで)強要問題が焦点化されるようになってからは比較的、ストレートに「困っているんです。助けてください」と訴える人が増えてきました。
「ノーと言えない女性」が選別される

 −−相談目的で一番多いのは、作品の回収や販売停止ですか?

 金尻さん そうです。未販売のものを止めたいというケースもあれば、販売後に回収したいというケースもあります。例えば、「身バレ(※出演が周囲に知られること)しないと聞いていたのに大手サイトで大々的に販売され、ツイッターでも拡散し、すぐに身バレしてしまった」などという相談がありますが、プロダクションやメーカーの人は、「自分の不注意で彼氏にスマホを見られるなどして身バレすることはあっても、年間10万本も販売されているし、君は『星くずの中の星くず』だからバレないよ」「バレると思うこと自体、逆にちょっと『てんぐ』になってるんじゃないの?」などと言うんです。

 「10年前に撮影されたものを回収したい」という相談もあります。当時は販売に同意していても、ネットで配信されるとは思っていない。それがいきなり再編集されてネットで売られてしまい、「身バレしたくない。子供には知られたくない」と訴えながら来られます。

 宮本さん だいたい、どの契約書にも「本人の肖像権を全部メーカーに引き渡す」というものすごく大事な条項があるのですが、(プロダクションからは)その説明がない。知らないまま署名し、「総集編」などとして2次使用、3次使用されてしまうと本人はパニックになります。最初は承知しても、撮影途中で嫌になることも当然あり得るわけで、途中破棄(ができる)という条項があってしかるべきなのですが、それは見たことがありません。

 −−「狙われやすいタイプ」というのはあるのでしょうか?

 金尻さん ある大手プロダクションのケースで一般的な流れを説明すると、「コスプレモデル」「グラビアモデル」などを募集する“表”のサイトがあり、そこに応募してきた人たちがまずアダルトチャット(※ウェブカメラ映像を使いリアルタイムにやり取りするシステム)のモデルをさせられます。そこで逃げない方、「ノー」と言えない方を選別する。18〜19歳はチャットで稼がせながらキープしておき、20歳の誕生日にAVプロダクションに連れて行って「脱げる子ですよ」と言うと、トントンと(デビューの)話が進む。

 宮本さん 「ノー」と言えない性格の若い女性たちが狙われやすいというのは、経験則から見えてきています。AV出演契約に持っていくまではいろいろな手順があり、マニュアル化されているのではないかと思うほどです。そういう子たちは「言っちゃ悪いかな」という変な倫理観に惑わされて、嫌だと言えないんです。
タレントになりたがる女性たち

 −−AV出演強要を巡っては「タレントになれる」という誘い文句が非常に効いているようです。なぜそこまで、女性たちはタレントになりたがるのでしょうか?

 金尻さん 現在の日本では、アイドルやタレントはとても楽しそうで華やかな業界として描かれています。誰かに認められたい、社会的に成功したいと思う一方で、自己評価や自己肯定感が低い10代〜20代前半の女性にとって、多少の性的なことを要求されたとしても、親に迷惑をかけずに自立し、「一発逆転」する手段として芸能界に行くことが、手っ取り早い道に思えてしまいます。

 宮本さん やはり、女の子が選べる職種の狭さだと思います。「俳優になりたい」という男の子はそれなりの修業をするわけですが、「タレントになりたい」という女の子たちの「修業」に対するイメージはものすごく貧困です。だからタレントにスカウトされて、「プロモーション用にちょっとフルヌードの写真撮ってみようか」と言われてもおかしいと思わず、受けて立ってしまうのです。

 この本に出てくる女の子たちは、皆さん美しい人たちなんですね。それはいいんだけれども、その美しさを「性とくっつけて売る」というイメージが17〜18歳でインプットされてしまっている。裸になることに若干、抵抗はしても「女がこういう道で生きて成功するための方法なんだ」という刷り込みがどこかでなされている。テレビなどを見ていても、そういう情報はいっぱいあります。
求人サイトの“トリック”

 −−悪質な勧誘に惑わされないよう、啓発や性教育がもっと必要なのでは?

 金尻さん もちろん予防も重要ですが、「予後」も重要なんです。予防だけしていても被害はなくならない。学生たちはやはりお金に困っています。貧困なんです。「奨学金を使ってしまった」と切羽詰まっている方もいます。「高収入 女性」と検索するといろいろなサイトが出てきて、AVプロダクションもかなり紛れ込んでいる。そこには、面接するだけでお金をくれると書いてあるわけです。

 −−「話だけ聞きに行って、無理だったら断ればいい」という発想は危険?

 金尻さん やはり向こうもそれでご飯を食べている人たちなので、言葉にたけているんですよ。例えばこういう感じです。(※実際にスマートフォンの検索画面を見せながら)「バイトがしたいけど忙しい」「買い物をしたいけどお金がない」「ご相談いただいた方全員に1万円」。どこにも「AV」って書いていないんですね。でも、これはある中堅AVプロダクションのフロント会社なんですよ。こういうものが、検索をしたらパパッと出てくる。本来こういった広告は禁じられているはずですが、当たり前に行われています。

 −−自衛には限界があるという前提で、女性にできることは何でしょう?

 宮本さん 困ったと思ったら相談すること。とにかく業界「外」の人に相談することが大事です。家族が無理なら友達でもいい。話しづらいだろうけど、そこは一歩、勇気を出してください。「他者に話すことによって、抱えている問題を自分で整理する力」というものを、たいがいの人が持っていますから。

 金尻さん 相談を受ける側も、独りで抱え込まずに支援団体に相談してほしい。これはつくづく思うのですが、相談される側が独りで抱え込んでしまい、結局は相談者の利益にならないことがあるんです。(勧誘手法は)先鋭化しているので、個人で闘える相手ではありません。もっと言えば、弁護士さんも相談してほしい。私たちにはいろいろな「戦果」の情報が入ってきますから。
なぜ「辞めたくても辞められない」のか

 −−相談支援活動を続けてきて、どんなことを感じますか?

 金尻さん 私たちは相談者と一緒に闘う立場であって、ジャッジする立場ではありません。「非審判的(裁かない)態度」を大切にしています。ただ、一つ言えるのは「出演者と事業者の立場には圧倒的な格差がある」ということです。

 また私自身、作品の削除請求をするためにAVをたくさん見るのですが、もう性的に見ることができなくなっているし、「このシチュエーションはぬるいな」「次のアングルはこうだろうな」などと考えてしまう。何度も見るとまひしていくんですよ。業界人も出演者も、同じようにまひしているんじゃないかと思います。AVを見たこともなかった人が、巻き込まれて出演してしまうと、性に関するアイデンティティーが変わってしまう。感覚が変わるんです。

 −−「セックス観が変わる」ということでしょうか。

 金尻さん 例えば、子供の頃に親や義父から性的虐待を受け、「自分には価値がない」「性的なことは嫌いだ」という相談者にとって、AVに出ると「2〜3時間頑張れば十数万円になる」と自分の体の価値が金銭的な価値に置き換えられてしまい、なかなか辞められなくなり、(AV出演に)依存していかれた方も複数います。

 ある相談者が「今辞めても、自分には何も残らないから続けるしかない」と言っていました。他の就職先があるわけでもないし、思ったほど稼げてもいない。家賃の支払いもあるのに預貯金はどんどん目減りしていく。そこでハードな撮影に応じると、精神的にダメージを受け、また稼げなくなるという負のスパイラルに陥る。でも、私たちはそういう方に「辞めなさい」とは言いません。非審判的態度で、本人が辞めたいという意思を持つまでずっとそばに寄り添いながら、伴走している状況です。

 宮本さん ベースになっているのはソーシャルワークの理論と実践です。決してその人を責めない。もう十分に自分で責めているわけですから、その上に他者の私たちが責めることは絶対にしない。でも、それにはこちら側の覚悟というか、身構えが必要。「あなた、なんでそんなことしちゃったのよ」と言う方がすごく楽なんですけど、口まで出かかってグッとのみ込む。忍耐力はだいぶ養われたよね。

 金尻さん 図太くなりました。ただ、「支援慣れ」するのが怖い。相談者の事情は一人一人違うので、そこに寄り添わなければいけません。

 宮本さん 本当に混乱して飛び込んできた人が、話しながら自分の気持ちを整理して、やるべきことを見つけて力を得ていく姿をまざまざと見ることもあって、それはうれしい。

 金尻さん 最初は困惑し、どうしたらいいか分からなくても、一緒に整理して優先順位を付けていくと全体像が分かってきます。そうすると「自分でコントロールできる」と思えてきて、ふっと楽になれる。私たちのミッションは、そうやってコントロールを奪われた状態から回復するお手伝いをすることだと思っています。

(つづく)


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