ポルノ・買春問題研究会
論文資料集10
2010年度の論文資料集10号。詳細はこちらより
 
メニュー
 
Google検索
 
最新 << 6   7   8   9   10   11   12   13   14   15   >>  最初

その他 : 性暴力を問う 第1部 被害者たちの叫び<8>「社会変える

日時: 2010-12-05  表示:3630回

私も顔を上げて生きる

 何かを訴えるような目で見つめる女性、少年時代に性虐待を受けた場所でむせび泣く青年、バラが彫られた腕に残るリストカットの跡――。写真一点一点に、被写体になった性暴力被害者のプロフィルが添えられている。

 米国在住のフォトジャーナリスト、大藪順子(のぶこ)さん(38)は、性暴力のむごさと、生き抜く被害者の力強さを、カメラを通じて伝え続けている。

 新聞社のカメラマンだった1999年、イリノイ州の当時の自宅で強姦(ごうかん)に遭った。うつ状態やパニック障害に苦しむ日々。「レイプで人生を終わらせたくない」。2年後、米国やカナダで撮影を始め、70人の素顔に向き合った。日本でも、写真展や講演会で体験を語る。

 2006年4月、故郷の大阪で開いた講演会。大藪さんは、聴衆の中にいるだろう〈声なき被害者〉に呼びかけた。

 「自分を責めないで。あなたは犠牲者じゃなくて、サバイバーなんです」

 苦難を乗り越え、生き抜いた人をたたえる意味が込められた言葉、サバイバー。

 会場で、兵庫県に住む響子さん(仮名)(31)が涙を流しながら聞いていた。

 響子さんは13歳の時、警察官を名乗る男に、民家の陰に連れ込まれ、性器を触られた。怖くて誰にも言えず、胸の奥に封じ込めた。

 それからは、度々体調を崩し、学校を休んだ。何度も死にたいと考える。出会い系サイトで知り合った男たちとの関係に依存もした。「私は、どこかおかしい」。でも、自分では理由が分からなかった。

 記憶の扉が開いたのは、26歳の時。ふと手にした本に「性的虐待」という言葉を見つけ、突然、13年前の被害がよみがえった。本にあったトラウマの症状が、自分に当てはまっていた。あれが私の人生を狂わせてきたのか――。

 過去を克服するために、被害者の自助グループに参加し、思いを打ち明けた。フラッシュバックと闘い、わき上がる怒りと「犯人から逃げなかった自分が悪い」という自責の念に、もがいた。

 大藪さんの講演を聞いたのは、そんな時だった。

 「私も顔を上げて生きる」

 07年11月、自らの企画で、仲間とともに大藪さんの写真展を開いた。さらに一歩を踏み出そうと、春からは、1年間の滞在予定でカナダに渡る。

 「過去は消せない。それでも、生き延びた自分に誇りを持ちたい」

 大藪さんと、「性犯罪被害にあうということ」の著者、小林美佳さん(34)。実名で被害を公表した2人の女性は昨夏、支援者らに後押しされ、「性暴力をなくそう」キャンペーンを始めた。

 啓発用の冊子には、こう記した。

 〈みんなが性暴力の本当の姿を理解し、「あなたが悪いのではない。悪いのは暴力をふるった側だ」と言ってあげられるようになることが、被害者が声をあげられる条件です。そして、この犯罪を根絶する第一歩なのです〉

 2人は口をそろえる。

 「今、社会が耳を傾け、知ろうとしてくれている、と肌で感じる。この機会を逃してはいけない」

(おわり)

 社会部・岸辺護、久場俊子、辻阪光平、佐々木栄が担当しました。
(2010年2月20日 読売新聞)

その他 : 性暴力を問う 第1部 被害者たちの叫び<7>ひとりぼっち

日時: 2010-12-05  表示:3633回

「命守る」支援者も連携

 岡山市の犯罪被害者支援団体「VSCO(ヴィスコ)」専務理事の森陽子さん(60)には、忘れられない少女がいる。

 自宅で同級生から強姦(ごうかん)の被害に遭った中学1年生。2006年秋、母親からの依頼で初めて対面した。カウンセラー歴を積んできたが、「最近の子はこんな感じなのかな」と戸惑った。取り乱す様子もなく、淡々として見えたからだ。

 しかし、少女は家出や自傷行為のリストカットを繰り返すようになった。連絡を取り続け、やんわりと精神科の受診を勧めてもみたが、「私は弱くない」と嫌がった。

 2年後、家出先で睡眠薬を飲み、亡くなった。死因はショック死。15歳だった。

 苦しみの深さに気づけていたら――。以来、「見えない奥底の傷もくみ取れるようになりたい」と願い続けてきた。

 犯罪被害者保護法成立から10年。性犯罪では、告訴期限(6か月)の撤廃、集団強姦罪の新設、事件直後の感染症検査や避妊措置の公費負担などが進められてきた。

 しかし、お茶の水女子大の戎能(かいのう)民江副学長(法女性学)は指摘する。「性暴力で仕事や安心できる家を失った人への公的支援は、なきに等しい。医療・精神面をケアする専門的な受け皿も足りない。社会が議論を避けてきたからだ」

 そんな「壁」に立ち向かい、森さんら25人のスタッフは日々、奔走している。

 自宅で襲われた女性が公営住宅に転居できるよう、自治体にかけあう。通院や、事情聴取の行き帰りに付き添う。商店街で募金活動をし、精神科の受診費用などを支給する独自の基金も設けた。

 「大切な命をもう失いたくない」と森さん。「DV(家庭内暴力)もセクハラも、見向きもされない時代があった。実情を訴え続ければ、社会はいつか受け止めてくれる」

 医療関係者も動き始めた。4月、阪南中央病院(大阪府松原市)内に、全国初の総合支援窓口「性暴力救援センター・大阪(SACHICO)」が誕生する。

 女性支援員が24時間、SOSの電話を受け、寄り添う。外来とは別に、専門の待合室や診察・面談室を設け、精神科医や弁護士にもつなぐ。必要なサポートを一か所の窓口で提供する仕組みだ。

 「女性の一生を診る医師として、性暴力の問題は避けて通れない」。センター準備室長の加藤治子さん(60)は、同病院の産婦人科医として長年、勤務する中で、そう思い続けてきた。心身の早い回復には初期対応が重要だが、一人で悩んだ末、心の傷が深くなってから来院する人も少なくない。専門家が連携し、「被害者のための場所」をつくろう、と呼びかけた。

 「置き去りにされてきた被害者のために、まず旗を立てたい。そして『ひとりぼっちと思わないで』と伝えたい」

 旗の下には今、支援員希望者36人が集う。
(2010年2月19日 読売新聞)

その他 : 性暴力を問う 第1部 被害者たちの叫び<6>裁判員制に懸

日時: 2010-12-05  表示:3735回

抵抗できずは「合意」じゃない

 「裁判員裁判の対象から、性犯罪を除いてほしい」

 昨年10月、日本弁護士連合会の犯罪被害者支援委員会が開いた意見聴取の場で、東京都在住の美月さん(仮名)(29)が訴えた。

 9年前、3人組の男に車に押し込められ、強姦(ごうかん)の被害に遭った。「抵抗すれば殺される」。防衛本能から従順を装った。刑事告訴はしていない。

 「抵抗できなかったことが、合意と取られる恐れが少しでもあるのなら、心配です。今の法制度では、被害者が守られている、と実感できません」

 日本では61年前の最高裁判例が今も生きている。強姦罪の成立には、「抵抗が著しく困難になるほどの暴行・脅迫」が必要とされる。

 被害者側の行動がこと細かに突き詰められ、「叫ぶなど激しい拒絶がなかった」と、無罪になった事件もある。

 中京大法科大学院の柳本祐加子准教授は「『嫌なら大声を上げて逃げるはず』『知人なら合意があるだろう』といった〈強姦神話〉は根強い。合意を巡って、被害者の性的な過去が引き合いに出されることもある。裁判員に女性が落ち度を責められ、追及される場面が出てこないか」と危惧(きぐ)する。

 2008年10月、国連規約人権委員会は、日本政府に、強姦罪の適用範囲をもっと広げ、被害者に「抵抗」の証明を課す負担を取り除くべきだ、と勧告した。米国では、法廷で被害者の性的過去を聞くことを制限するレイプ・シールド法があるが、日本にはない。

 日弁連での会合では、別の被害者、岡山県のゆかりさん(仮名)(28)が、裁判員制での審理に賛成意見を述べた。

 「社会の目が性犯罪の深刻さに向き始めたのに、除外されたら、被害者は、また闇に取り残されてしまう」

 同僚の男からの被害をきっかけに出社できなくなり、1か月足らずで解雇された。社会への不信を抱えていたが、男が準強姦罪に問われた公判では、泣きながら書いた意見陳述書の全文を、裁判長が読み上げてくれた。

 思いに耳を傾けてもらえたことに、心に日が差す思いだった。裁判員にも被害者の声が届くのなら――。

 裁判員裁判で扱われる事件のうち、2割を性犯罪が占める。これまでに審理された性犯罪事件で被害者本人が別室からの「ビデオリンク方式」などで意見陳述したケースでは、裁判員から「生の声に心が痛み、気持ちが伝わった」との感想が聞かれた。

 「裁判員の理解が進み、少しでも被害者が溶け込める社会になれば」とゆかりさん。一方、美月さんは「裁判員にアピールする“道具”として、嫌でも引っ張り出されるようにならないか」と心配する。

 〈市民感覚〉への、懸念と期待が交錯する。
(2010年2月18日 読売新聞)

その他 : 性暴力を問う 第1部 被害者たちの叫び<5>出社できず解

日時: 2010-12-05  表示:3855回

これからどうすればいいの

 「このまま休むようなら、辞めてもらわざるをえない」

 2008年3月。会社に呼び出された岡山県在住のゆかりさん(仮名)(28)は、信じられない思いで社長の言葉を聞いた。「うちは母子家庭です。困ります」。何度も訴えたが、手続きは進められた。

 その1週間前、同僚の男に「現場を手伝って」と言われて車に同乗し、意識がもうろうとしたところを襲われた。車から逃げ、警察に届けたが、悪い夢のようだった。

 後になって、直前に男から手渡され、「眠気覚まし」と思って飲んだ薬が、睡眠薬だったと知った。

 誰とも会いたくない状態が続き、部屋に引きこもった。「ママ、どっか痛いん? 大丈夫か?」。泣いてばかりいると、小学生の息子が心配してくれた。でも、「自分は汚れてしまった」と感じ、抱きしめてやることもできなかった。

 会社には、男から勤務中に受けた被害を訴え、「出社できない」と伝えていたが、1か月足らずで辞めさせられた。一方、男は準強姦容疑で逮捕されるまでの2か月間、何食わぬ顔で出勤。会社側は事件を知っていたのに――。

 「社会ってこんなものなの?」。食欲がなくなり、眠れない日が続いた。自殺さえ考えたが、「息子を残しては逝けない」と踏みとどまった。

 生活がある。心にむち打ってハローワークに通った。

 「辞めた理由は何ですか」。失業手当の申請時に聞かれた。「解雇された」と訴えたが、信じてもらえない。手続きに必要な会社作成の離職票では、自主的に退職したことになっていた。思い切って、性被害が原因、と明かしたが、気まずそうにされただけだった。

 その後は、退職理由を「セクハラ」にした。ある日、職探しの窓口で、女性職員から「私も前の職場でセクハラされたけど、バネにしてきた。あなたも頑張って」と明るく言われ、たまらず言い返した。

 「あなたの被害とは違う。一緒にしてほしくない」

 なぜ辞めたのか、聞かれるのがつらい。ハローワークまで行っても、ドアの前で足がすくむようになった。

 再就職先は今も決まっていない。失業手当はとうに切れた。貯金も、もう底をつく。暮らしに不可欠な車の所有が認められないと知り、生活保護はあきらめた。

 「これからどうすればいいの」。見えない糸に縛られ、一歩も動けないと感じる。

 生活まで脅かす事件の影響。法務省による犯罪被害者の追跡調査(1999年)では、強姦事件の被害者の4人に1人が「引っ越さなければならなかった」、6人に1人が「仕事や学校を続けられなくなった」、「生活が苦しくなった」と答えた。
(2010年2月17日 読売新聞)

その他 : 性暴力を問う 第1部 被害者たちの叫び<4>不用意な言葉

日時: 2010-12-05  表示:3845回

虐待されている気分だった

 数年前、自宅で強姦(ごうかん)事件に遭い、今なお、忌まわしい記憶と闘う久美子さん(仮名、20歳代)は、当時の捜査を思い返し、こう表現する。

 「精神的に虐待されている気分でした」

 あの日、男が逃げた後110番し、放心状態で玄関先にうずくまっているところへ、警察官が駆けつけた。風呂上がり直後の事件で、髪はぬれたまま。殴られた顔は紫色に腫れ上がっていた。しかし、着替えも治療も後回しで、現場検証が始まった。

 「写真を撮ります」。警察官に求められるまま、襲われた場所を震えながら指さした。刑事が加害者役になり、マネキン相手に暴行を再現する写真にも一緒に写るよう言われた。みじめさが募った。

 誰かにそばにいてほしい一心で、知人を呼んだが、被害の詳細を明かすつもりは、まだなかった。それなのに、「妊娠していたらいけないから――」という警察官の不用意な一言ですべて知られてしまった。不信は今も消えない。

 性暴力の被害者が事件後も傷つけられる「セカンドレイプ(2次被害)」。捜査の過程だけで起こるものではない。

 埼玉県に住む女性(22)は、飲み会で知り合った男に強引に自宅に連れ込まれ、体を触られた。幼少期からの性被害もよみがえり、自殺を考えるほど思い詰めた。「この苦しみをみんなに知ってもらって、被害を減らせれば」。そう思い、体験をインターネットのブログにつづった。

 ある日、批判コメントが集中する“炎上”が起きた。

〈いい事されて良かったね〉

〈しょせん未遂〉

〈ブログのアクセス(閲覧)数を上げたいだけでしょ〉

 書き込みの欄に、言葉の刃(やいば)が並んでいた。

 横山ノック大阪府知事(当時)が1999年の知事選中、運動員の女子大生にわいせつ行為をしたとして強制わいせつ罪で有罪判決を受けた事件。告訴した女子大生をサポートした市民団体「性暴力を許さない女の会」の栗原洋子代表は「初めて彼女に会った時、ずっと泣いていて、重圧につぶれかけていた」と振り返る。女子大生は知事に「真っ赤なウソ」と公然と非難され、週刊誌には写真を載せられた。好奇の目にさらされ、大学も変わらざるをえなかった。

 法廷では実名で呼ばない、証言の際には、ついたてを置く――。この事件の公判で、女子大生の弁護団が求めた「異例の措置」は今や、被害者の当然の権利になった。

 しかし、被害者の支援活動を続けてきた栗原代表は言う。「確かに制度面は前進したかもしれない。でも、被害を訴え出た女性が『そんな服を着ているからだ』『なぜ逃げなかったのか』などと責められ、孤立する現状は、10年たっても変わっていません」
(2010年2月16日 読売新聞)

その他 : 性暴力を問う 第1部 被害者たちの叫び<3>よみがえる記

日時: 2010-12-05  表示:3743回

いつになったら楽に

 ベッドに横になり、何気なくテレビのバラエティー番組を見ていた時だった。

 お笑い芸人が、おどけた様子で、急に脇から画面に現れた。その瞬間、久美子さん(仮名、20歳代)は、思わず身をすくめた。慌ててふとんに潜り込み、手探りでテレビのリモコンを探す。電源を切った手が震え、動悸(どうき)がなかなか治まらない。

 「あの日」から、すべてが変わった。

 襲われたのは数年前。深夜の自宅アパートだった。風呂上がりに脱衣所で髪をふき、ふと顔を上げると、覆面の男が物陰から飛び出してきた。「騒ぐな、殺されたいのか」。怖くて声も出なかった。

 自宅は、忌まわしい強姦(ごうかん)の記憶を呼び起こすだけの場所になった。「泥棒が入った」ことになっていたが、近所の人から「大丈夫だった?」と声を掛けられるたび、びくびくした。

 耐え切れず引っ越したが、何も変わらない。ミシッという家鳴りが、男の足音に聞こえる。「絶対また侵入してくる」。何度、鍵を確かめても安心できない。目をつむると、覆面の男が殴りかかってくる姿が浮かび、眠れない夜が続いた。

 <生きる気力をなくす>

 <記憶が抜け落ちる>

 <自分を責める>

 性暴力の被害者は、特に精神的な後遺症が重いと言われる。記憶や恐怖が鮮明によみがえり、パニックになる「フラッシュバック」に苦しむ人も多い。加害者と同じ服の色、コロンの香り、車のエンジン音――。何でも引き金になる。

 久美子さんの場合、それは「目の前に突然現れる男性」だった。途端に恐怖で足がすくむ。商品棚の陰から人が出てくるのが怖くて、近くのスーパーにも、一人で行けなくなった。

 半年後、男は逮捕された。一人暮らしの女性宅を狙い、同様の犯行を重ねていた。

 「負けたくない」と、勇気をふるって裁判を傍聴し、男の素顔も見届けた。しかし、今もフラッシュバックが起きては、振り出しに戻る日々が続く。「いつになったら楽になれるの」と途方に暮れる。

 何も知らない両親に悟られぬよう気丈に振る舞っているが、後ろめたい。将来、誰かと結婚しても、打ち明けられるかどうか。「何年か後、刑務所を出た男は、何食わぬ顔で日常に戻れるかも知れない。でも私は、死ぬまで一人で闘わなくてはならないんです」

 「思い出すのがつらくて、昨日は一睡もできなかった」。取材後、久美子さんは記者にこう打ち明けた。「それでも、被害者の苦しみを少しでも知ってほしかった」と話した。
(2010年2月15日 読売新聞)

その他 : 性暴力を問う 第1部 被害者たちの叫び<2>私たちを置き

日時: 2010-12-05  表示:3878回

社会に求める「理解」

 2009年9月、青森地裁。性犯罪を裁く全国初の裁判員裁判が開かれた。「性犯罪被害にあうということ」の著者、小林美佳さん(34)も、法廷に足を運んだ。被害者の一人として、裁判の実相を知っておきたいと思ったからだ。

 2件の強盗強姦(ごうかん)罪などに問われた被告の男。入廷する姿を目にした途端、傍聴席で体の震えがとまらなくなった。

 <Aさんの背後から包丁を突きつけ、「言うことを聞け。殺すぞ」と言って脅し……>。検察官の冒頭陳述が、自らの記憶と重なる。男の弁明を聞くうち、憤りと悔しさがこみ上げた。たまらず法廷を飛び出し、廊下で泣き崩れた。

 翌日、被害女性2人が別室からの「ビデオリンク方式」で意見陳述した。〈一生傷を負ったまま生きなくてはいけないなら、いっそ死にたい〉〈許せない。女性として一番ひどいことをされた〉。一言一言が胸に刺さった。「男と同じ建物内にいることさえ、耐えられないはずなのに」

 判決は懲役15年。2人の声が裁判員に届いたのか、求刑通りの厳刑だった。

 それでも、小林さんは思う。「いくら刑が重くなっても、心の傷は消せない。振り絞る思いで語った2人の葛藤(かっとう)、声も上げられない被害者たちの苦しみを、置き去りにしないでほしい」

 内閣府の08年調査では、無理やり性交された経験のある女性の62%が「恥ずかしい」「無駄と思った」と誰にも言うことができず、警察に相談したのはわずか4%だった。

 警察庁は10年度、性犯罪被害者対象の「ワンストップ支援センター」を試験導入する。女性の負担を減らすため、病院に民間の支援スタッフと専門の警察官が常駐。事情聴取と診療、カウンセリングを1か所で行う。

 だが、被害者は「まず捜査ありきなら、敷居は高いまま」と不安を漏らす。精神科医の小西聖子(たかこ)・武蔵野大教授は「被害を打ち明けづらいことが、性暴力の特徴。水面下の被害者をすくい上げ、支える意識が社会全体に必要だ」と指摘する。

 小林さんと交流する2000人の「仲間」も、警察に届けたのは1%に過ぎない。小林さんは「普通に生活することさえどんなに大変か、わかってもらえなければ、一歩を踏み出せない」と語る。

   社会に何を求める?

 世間との溝を感じた時、仲間にメールで問いかける。

   あったかい気持ち

   聞いてくれる人

   理解

 〈声なき被害者〉の叫びが、小林さんの背中を支える。
(2010年2月13日 読売新聞)

その他 : 性暴力を問う 第1部 被害者たちの叫び<1>実名告白 2

日時: 2010-12-05  表示:3807回

「なぜ隠れなきゃいけないの」
 小林美佳さん(34)(東京都)は毎晩、勤務先から帰宅すると、パソコンと向き合う。

 画面に浮かぶ新着メール。

   私も性暴力の被害者です

   誰も分かってくれない

   死にたい

 同じ苦悩を味わった女性たちのつぶやき。<話してくれてありがとう>。一つずつ、思いを巡らせながら返信を終えると、午前3時を回っていることもある。

 2008年4月、「性犯罪被害にあうということ」を著し、実名で体験を公表した。以来、ホームページに掲載したアドレスに、多くの女性たちからメールが届く。

   初めて打ち明けます

   言えてよかった

 勇気を振り絞っただろう、告白に胸が詰まる。「行き場を失って、ここにたどり着いたんだと思う。私にできるのは、精いっぱい受け止めること」

 こうして、つながった「仲間」は、2000人を超えた。

 00年8月、道を尋ねてきた2人の男に車に押し込まれ、強姦(ごうかん)された。カッターナイフの刃を出し入れする音、スピーカーから響く大音量、恐怖で凍りついた体――。

 20分後に解放された時、24年かけて築いた自分のすべてが崩れ去った、と感じた。

 〈汚れた体〉〈生け贄(にえ)〉――。自らを蔑(さげす)む言葉ばかりが頭を巡る。あの車に似た車や大きな音に出くわすと、震えがとまらない。記憶が途切れ、折り返しの電車で何往復もしていたことがあった。体重は13キロ減った。犯人の行方はわからない。

 迷った末、身近な人に打ち明けた。「お前だけがつらいんじゃない」「誰にも言わないで」とさとす家族。「ごめん」「何も言えない」と困った顔をする友人。腫れ物に触るような態度が、「黙っていろ」という圧力に思えた。周囲とすれ違い、気持ちが荒れた。最初は受け入れてくれていた恋人も、「支え切れない」と去っていった。

 2年後、事情を知る別の男性と結婚。「マイナスの人生を一気にプラスに」と願ったが、夫に体を求められるたび、こっそり吐いた。3年で離婚した。

 転機は、インターネットで見つけた、性暴力の被害者が集う掲示板だった。

 「顔見知りに」「薬を使われた」「就職面接と偽られた」――。あまりの多さに驚いた。

 同年代で、事件に遭った時期も近い「りょうちゃん」の書き込みを見つけた。冷静に意見を述べ、ほかの被害者にも的確にアドバイスしている。

 思い切ってメールすると、すぐに返事が来た。〈わかるよ〉の一言に、心から癒やされ、やり取りを重ねた。

 思い通りにならない心身のつらさ、被害を隠して生きるやましさ、周囲に理解されない苦しみ……。すべて分かち合えた。

 仲間の輪が広がるにつれ、共通して抱える〈生きづらさ〉が見えてきた。「悪いのは被害者じゃないのに。いつまでも隠れていなきゃいけないのか」。誰かが立ち上がって声をあげないと、思いは伝わらない。実名で、自らを語る覚悟を決めた。

 実名手記への驚きと反響は大きく、小林さんが講演やシンポジウムで発言する機会も増えた。

 人前で話すたび「美佳さんって強いんですね」と言われる。そうじゃないのに、と恥ずかしくなる。

 今でも壇上で涙がとまらなくなり、パニックに襲われる。体験を語った翌日はぐったりする。それでも活動を続けるのは、そこでまた、仲間と言葉を交わし、つながれるから。

 「一人でも多くの被害者の声を聞きたい。そして『あなたの気持ち、わかるよ』『あなたの存在は尊いんだよ』って言ってあげたいんです」
(2010年2月12日 読売新聞)

その他 : 性暴力 癒えぬ傷 【下】勇気を持って相談を (2010.09.24)

日時: 2010-12-05  表示:3906回

 「女性であれば誰でも良かった」「イライラ感が抑えきれなくなり女性を襲った」――。今年1月の裁判員裁判。3件の性犯罪事件を起こし、強姦(ごうかん)致傷罪などに問われた男性被告(27)の供述調書が次々と法廷内で読み上げられると、裁判員らは顔をしかめた。

 被告は欲求を抑えきれなくなると、深夜に車で暴行する女性を物色。女性を見つけると後をつけ、言葉で脅して暴行するという犯行を繰り返していた。卑劣きわまりない手口に、公判後の記者会見で、ある男性裁判員は「人権侵害甚だしい。許されるべきでない」と怒りをあらわにした。

(写真キャプション)
今月2日、無修正のわいせつDVDを販売目的で所持したとして男2人が逮捕され、約1000枚が押収された。過激なわいせつ映像の感覚で性犯罪を起こすケースも多い(前橋東署提供)

 無差別に狙われた女性たち。この事件から、どんな女性でも性犯罪の危険と隣り合わせにいることが分かる。

 県警被害者支援室は、被害に遭わないために、ポイントを挙げる。

 ■性犯罪被害を防ぐポイント

・夜道で携帯電話に気を取られない

 不審者の接近に気付かず危険。特に暗い道では、周囲に気を配る意識を持たなければならない。

・蒸し暑い夜の戸締まり

 アパートの2階でも網戸の状態で寝ていると、窓から侵入されて性犯罪被害に遭うケースがある。

・ハガキ類は裁断して捨てる

 そのままゴミに出すと、住所や名前、女性の1人暮らしが分かってしまう場合がある

 はびこる性犯罪に対し県警は、相談ダイヤルを常時設けており、臨床心理士の資格を持った女性職員への相談もできる。被害に遭った場合は、調書を取る警察官の性別を選ぶことができたり、今年から性感染症の検査料や中絶費用を全額負担したりするなど支援が充実してきた。同室は「1人で悩まずに相談してほしい」としている。

 しかし多くの支援者などは、「性被害を隠す女性は多い」と口をそろえる。物を取られて乱暴されても、警察や家族には強盗被害だけを訴え、暴行の被害については伝えない女性は多い。自分に負い目を感じ、自分を追いつめることもある。

 被害者の心のケアには、被害者同士が悩みを共有して支え合う「自助グループ」が有効とされるが、ある性犯罪被害者は「自助グループは作りにくい」と打ち明ける。

 性犯罪被害者の場合、悩みを話し合うミーティング中に被害時の記憶が強烈によみがえる「フラッシュバック」が起きたり、突然泣き出してしまったりして成り立たないこともあるという。信頼できる機関に相談を寄せることが、「うみを出すには一番」と話す。

 性暴力の傷はよく次のように例えられる。

 「くしゃくしゃに丸められた紙のしわは、いくら元に戻そうと伸ばしたり引っ張ったりしても、1度ついた以上、完全に消えることはない」

 県女性相談センターの職員は、「日本には昔、女郎さんなどがいて、女性はおもちゃになってもいいという風潮があった。でも今は少しずつ被害を訴えやすい環境になってきている」と指摘する。

 徐々に県内も性犯罪被害者への支援の手が広がっている。少しでもしわをのばすために、まずは勇気を持って相談。傷ついた女性を責める人は誰もいない。

 (この連載は波多江一郎が担当しました)

 ■性暴力やDVの主な相談窓口

◇県警性犯罪相談(027・224・4356)=24時間対応

◇県女性相談センター(027・224・4480)=月〜金は午前9時〜午後8時、土日祝日は午後1時〜5時

◇NPO法人「被害者支援センターすてっぷぐんま」(027・243・9991)=月〜金の午前10時〜午後3時

◇NPO法人「きりゅう女性支援グループいぶき」(0277・43・6068)=火、金の午前10時〜正午

◇NPO法人「ひこばえ」(027・268・5606)
(2010年9月24日 読売新聞)

その他 : 性暴力 癒えぬ傷 【中】家庭内 深刻な虐待も (2010.09.23)

日時: 2010-12-05  表示:3925回

 県内で暮らすミドリ(仮名)(39)は、3歳の頃から父と2人の実兄から25年以上にわたって性的虐待を受け続けた。夕方以降、1日4回の性暴力が毎日続いた。

 人を信じることができなくなり、恐怖感と隣り合わせで生きてきた。初めて父から性的虐待を受けた時、「天井から横になっている自分を見ている感覚に襲われた」。以後、このような解離症状に悩まされた。強いショックから多重人格の症状にも苦しみ、リストカットや首つりで何度も死のうとした。今でも男性と面と向かって話すときは恐怖を感じる。

 20代後半から、精神病院で治療を続けてきた。ここまで生きてこられた自分の命に光を当てたいという思いと主治医の勧めもあって、5年前からブログで自身の経験をつづっている。

 「読んでいて涙が止まらなかった」「見守っているよ」などのメッセージが書き込まれ、1人じゃないと強く感じられた。中には、「自分も同じ経験をした」というコメントもあった。

    ◎   ◎

 自分の娘に対して性教育などと称し、性暴力を振るうケースは珍しくない。家庭内暴力(DV)の被害に遭った女性を支援しているNPO法人「きりゅう女性支援グループいぶき」(桐生市菱町)の皆川陽子理事長(70)によると、身体や精神的な暴力のほか、性暴力や経済的暴力に悩んでいる女性は多いという。皆川理事長は「男性の方が優位という社会の仕組みはいまだ変わっていない。その構造が男性が女性を支配する構図につながっている」と分析する。

 性的暴力を含むDVは、精神に大きな痛手を負わせる場合がある。また身近に潜む恐怖としてストーカーも性犯罪の前兆と言われている。ともに生命に危険が及ぶ事件に発展する可能性がある。

 県警によると、DVやストーカーの認知件数はここ数年増加傾向にある。2009年は共に統計を取り始めた01年以降最多の501件、552件に上った。

 要因の一つとしては、県警への相談件数が増えたことが挙げられる。警察や関係機関の広報啓発活動で、DVへの認識や相談窓口の周知が、ある程度浸透した結果だと言える。今年も8月末現在で、DVが314件(前年同期比27件減)、ストーカーが391件(同18件増)と、共に昨年に近いペースで推移している。

 被害者支援を行っているNPO法人「ひこばえ」(前橋市三俣町)の坂田さゆり副理事長(45)も「年配の方たちの中には、女は我慢して当たり前だという意識が残っている」と指摘する一方、「DV防止法の施行やDVを扱うテレビドラマの影響もあって、性被害やDVに対して若い世代が声を上げやすくなった」とも話す。

 家庭内の性暴力は、特に第三者に打ち明けるのが難しく、被害が表面化しにくい。身内でも犯罪になるという意識を社会全体で共有する必要がある。
(2010年9月23日 読売新聞)

最新 >> 6   7   8   9   10   11   12   13   14   15   >>  最初
言語の選択
;
 
論文資料集9
2009年度のAPPの調査研究の成果を、論文資料集第9号にまとめました。ぜひご購入ください。詳細はこちらより
 
論文資料集8
2008年度のAPPの調査研究の成果を、論文資料集第8号にまとめました。ぜひご購入ください。詳細はこちらより