カナロコ 9月23日(木)7時30分配信
川崎市高津区で起きた女性殺害事件。女性は男から暴力を振るわれていたことを警察に相談し、男は「今後暴力は振るわない」とする上申書を提出、トラブルは沈静化したかにみえた。だが、事件はその数日後に発生。専門家は「未然に防げなかったのか。残念な事件だ」と声を落とす。
「ドメスティックバイオレンス(DV)をする人は暴力を繰り返す。たとえ一筆書いていたとしても、『なぜ警察に話したんだ』と怒り、より激しい暴力を振るう危険性がある。一時的にでも、保護する手はなかったのか」
川崎市内の専門家は、こう指摘する。さらに「自治体などの専門窓口に相談していれば、より適切なアドバイスを受けられた可能性もある」と話した。
高津署によると、女性は15日早朝、自宅で容疑者との間の金銭トラブルや「4、5回殴られた」とするDVについて署員に相談。その後、娘(4)とともに3人で同署に行き、容疑者は上申書を提出した。女性は「暴力を振るわなければ優しい。別れたくない」として、被害届を出さず帰宅。一方、女性は17日朝、娘が通う保育園に「(容疑者が)迎えにきても渡さないで」と言い残していた。事件はその直後だったとみられる。
DV被害者の支援などを行っているNPO法人「かながわ女のスペースみずら」の理事は「子どもの身に危険を感じていながら、一方で『別れたくない』という思いがある。暴力を振るわれ、客観的には危険な状況にあったとしても、大人の男女の関係に公権力が介入するのは難しい」と指摘する。
ただ、「母親が男に暴力を振るわれている中で生活している状況は、子どもへの虐待にあたる」とも話し、児童虐待の観点から介入する余地を指摘する。
警察庁の調査によると、配偶者などからの暴力事案の認知件数は年々増加。DV防止法が制定された翌年の2002年に1万4140件だったのが、07年には2万件を突破し、09年は2万8158件に上る。
みずらの理事は、県は早くからDV対策に乗り出し、川崎市は基本計画を策定するなど「体制は取れている。しかし、市民に専門機関の存在や支援の仕組みが十分に伝わっていないのではないか。時間はかかるが、周知徹底が必要だ」と話している。