産経新聞 11月24日(土)18時2分配信
子供への虐待が後を絶たない。最悪の場合、子供を死に追いやってしまう虐待を、母親を支援することで阻止しようという「虐待予防」という考えが注目されている。虐待件数ワースト1の大阪府では、20代の母親らが同じ世代の母親を虐待の加害者にさせまいと、啓発活動などを行っている。(佐々木詩)
◆当事者視点で
「英字新聞使ったらかっこいいやん」「カラフルな方が目立つんちゃう」
今月上旬、大阪市平野区の区民センター。児童虐待防止活動に取り組むサークル「Shiny☆c(シャイニー・カラー)」のメンバーらが、イベントで使うポスターの図案を話し合っていた。メンバーは皆、髪を明るく染め、きれいに化粧をして流行の服に身を包んだ「ギャルママ」だ。
児童虐待の取り組みを行おうと考えたのは約2年前。大阪市西区で幼い子供2人を自宅に置き去りにし死亡させたとして、当時23歳の母親が逮捕された事件がきっかけだった。
「母親は同年代。どこかですれ違っていたかもしれない。これはひとごとではなく、『友達』が起こした事件なんだと思いました」と、代表の吉沢有香里さん(26)は振り返る。
吉沢さんも4歳と2歳の兄弟の母親だ。事件を知り、子供だけではなく母親も救うことができなかったと感じたという。
当時、吉沢さんは若い母親たちの情報交換の場を作ろうと、交流サークル活動を行っていた。子育てに行き詰まっていた母親が、サークルに入ったことをきっかけに笑顔を見せるようになったことなどから、同年代だからこそできる支援がある、と思いを強くした。
今年6月、サークルを「シャイニー・カラー」に衣替えし、虐待防止活動を本格始動。22人のメンバーとともに、映画上映や有識者らを招いた座談会などを実施した。今月17日には、大阪府八尾市で子供の人権や暴力防止を広める活動をする団体とともにワークショップを行った。
吉沢さんは「自分たちにできることはきっとある。これからも、当事者視点でやっていきたい」と話している。
◆1人で悩まず
行政側も母親への支援を始めている。
平成22、23年に公表された厚生労働省の「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について」では、加害者である保護者側の背景として、「望まない妊娠」「妊婦健診未受診」「母子健康手帳未発行」が多いことを挙げている。
そんな背景を受け、昨年10月、大阪府は府立母子保健総合医療センター(同府和泉市)に委託して「にんしんSOS」を立ち上げた。
予期せぬ妊娠で、「パートナーと結婚できない」「育てられない」「出産費用がない」といった相談を電話やメールで助産師らが受け、産婦人科の受診を勧めたり、助産制度を担当する行政の窓口などを紹介したりしている。
立ち上げから1年で相談件数は延べ627件に上った。府保健医療室健康づくり課は「1人で悩まず、まずは相談してほしい」と話している。
【用語解説】妊婦健康診査
妊婦の健康状態や胎児の育ち具合などをみるために行う、身体測定や血液・血圧・尿などの検査。厚生労働省では、少なくとも毎月1回、妊娠24週以降は同2回以上、妊娠36週以降は毎週1回、それぞれ受けるように指導している。大阪府の調査では、妊婦健診を全く受けないか、数回しか受けずに出産したケースは昨年1年間で254件あったという。