[毎日](2004年1月13日)
◇「捜査が適切か立証に必要」??国、県「関連訴訟継続」と拒否
女性にわいせつな行為をしたとして逮捕された後、不起訴処分となった男性が「うその告訴に基づく誤認逮捕だった」として県警(県)や検察庁、裁判所(国)を相手取った国家賠償訴訟で、不起訴事件の捜査記録を開示するかどうかが焦点になっている。原告は「捜査が適切だったかどうかを立証するために必要」と開示を求めるが、被告側は関連する刑事訴訟が継続していることを理由に拒否。このため、裁判の進行も滞っている。【町田徳丈】
■虚偽告訴
国賠訴訟を起こしたのは会津若松市上町のパート店員、目黒哲郎さん(64)。「自宅でわいせつな行為をされた」という女性の告訴で、00年に強制わいせつ容疑で逮捕され、19日間拘置された。嫌疑不十分で不起訴になったが、取引先の信頼を失い、経営していた会社は廃業に追い込まれた。
その後、目黒さんは女性を虚偽告訴容疑で告訴し、うそをついたことを認めた女性は1審で実刑判決を受けた(女性は控訴)。さらに目黒さんは捜査が不当だったとして03年9月、福島地裁に国賠訴訟を起こした。
県は「捜査段階で女性の供述は一貫しており、捜査は適切だった」と主張する。これに対し、原告は、女性の供述が一貫していたかどうか検証するため、捜査記録の提出を求めたが、国、県は仙台高裁で女性を被告とした刑事訴訟が続いていることを理由に提出を拒んでいる。
■開示に風穴
刑事訴訟法は、公判前の捜査記録の開示を禁じており、これを根拠に検察は公判に至らなかった不起訴事件の記録も原則非開示にしてきた。
だが、被害者の立場を尊重する世論が高まったのを受け、法務省は00年3月、被害者本人や親族が損害賠償訴訟で被害を立証する目的で使う場合などは、不起訴事件でも死亡診断書、解剖の鑑定書など、捜査記録の一部の開示を認めた。
関係者のプライバシー保護などを理由に公開されなかった供述調書も、01年12月、名古屋地検豊橋支部が強制わいせつ事件の調書を開示。02年9月にも交通事故を巡る民事訴訟で、国が大阪地裁に関係者の供述調書を提出するなど、情報公開に風穴が開きつつある。
98年、統合失調症で通院歴のある男性に殺害されたいわき市の病院の精神科医(当時34歳)の遺族が、病院の設置者である市や加害者らを相手取った損害賠償訴訟(係争中)では、加害者が責任能力なしとされ、不起訴になったため、当初は供述調書などが開示されなかった。しかし、検察審査会の不起訴不当議決を経た再捜査で加害者が起訴されると、一転して開示された。「これで病院が加害者の監督を怠っていたことが具体的に立証できた」と遺族は話す。
■拒否の理由は?
目黒さんの訴訟では、福島地裁も「警察だけでなく裁判官、検察官がどう判断し、逮捕に至ったか知りたい」と捜査記録の提出を求めている。しかし、県と国は記録を提出する代わりに女性を調べた捜査員を証人として申請する方針だ。
捜査記録を開示すると、どんな支障が出るのか。国、県は法廷でも理由を明らかにしておらず、説明責任を果たしているとは言い難い。「開示拒否」の結論が先にあり、不起訴になった事件だというだけでは弱いため、継続中の虚偽告訴訴訟を持ち出しただけではないのか。
石塚伸一・龍谷大教授(刑事法)は「捜査記録はプライバシーの固まりだが、国の税金を使って集めたもので公共性がある。今回は誤認逮捕などで捜査のあり方が問われているので、開示して実態解明に協力すべきではないか」と県と国の姿勢を批判している。