[神戸](2004年1月10日)
防犯上、脱衣所に監視カメラを設置する銭湯や温浴施設が増えている。相次ぐ盗難事件に業を煮やした施設側の苦肉の策ともいえるが、女性客からは「盗撮と同じではないか」などの苦情が絶えない。カメラ付き携帯電話による盗撮行為などが問題になっているだけに、法律の専門家も「撮影していることをきちんと明示しないと、人権侵害になる」と警告している。(森本尚樹)
明石市の**(58)は今月初め、長女(26)とともに神戸市垂水区の温泉施設を訪れた。脱衣所で服を脱いでいると、長女が声を上げた。「カメラ!」
見上げると、天井に四台の監視カメラ。設置を知らせる表示もない。裸で涼んでいた多くの女性は、気付いていないようだった。二人はバスタオルを手放せなかった。
施設によると、カメラは昨秋に設置。浴場内で利用者がロッカーの鍵を取られ、貴重品を盗まれる事件が相次いだためという。映像は一―二週間保存されるが、警備会社が管理し、施設では見られないという。
苦情に対し、施設側は「お客さまに安心して利用していただくのが第一。今後も継続したい」と動じない。しかし、別の女性客(28)も「街角での盗撮が問題になっている時代。録画された映像がどうなっているのか、疑わないわけにはいかない。知っていれば、来なかった」と話す。
同市灘区の温泉施設も6年前、脱衣所に監視カメラを導入。ただ、女湯の脱衣所のカメラは「やましい所はないが、心情的に配慮せざるを得ない」と、カバーで覆っている。
玄関には「カメラ設置」と明示しているが、客の通報で警察官が来たこともある。経営者は「カメラのおかげで、盗難が激減した。男性でも裸を撮られるのは抵抗があるだろうが、理解してほしい」と訴えている。
ほかの対策に知恵を
平松毅・関西学院大教授(憲法)の話 承諾なく裸を撮ることは当然、肖像権とプライバシーの侵害。脱衣所に入る前にカメラの存在を明示し、撮られたくない利用客に選択権を与えるべき。そもそも、カメラに頼る前に、他の防犯対策に知恵を絞る努力も必要ではないか。