Newsweek 日本 2020/2/13(木) 17:35配信
<女性支援団体の調査で、難民認定待ちの女性たちの置かれた絶望的な苦境が明らかに>
祖国で性暴力を受け、イギリスに逃れてきた女性の3分の1が、再び性暴力のターゲットにされていたことが、最新の調査で分かった。
女性の難民を支援するイギリスのNPO「難民女性のための女性」が2月11日に発表した調査結果は、祖国で性暴力の犠牲になり、安住の地を求めてイギリスに来た女性たちが直面する現実を浮き彫りにした。
調査の対象となった106人の女性のうち32人が、祖国でレイプされるか性暴力を受けた後、イギリスで「衣食にも事欠く」生活を送るうちに、またも被害に遭ったと訴えた。イギリスで虐待されたという女性たちのうち、少なくとも25%が路上生活を送り、屋外で寝ているときに襲われたと話している。
「難民女性のための女性」の政策調査コーディネーター、プリシラ・ドゥディアは本誌の取材に対し、日頃の活動の中で、祖国で性暴力に遭い、イギリスで「再びトラウマを受けた」女性の相談に乗ることはよくあるが、それでも今回の調査結果には「ショックを受けた」と語った。
<人身売買の犠牲者>
「こうしたケースは増えている。過去に性差別による深刻な暴力を受け、この国に来て再び被害に遭い、心的外傷を負った女性の話を何度も聞いた。それでも、この調査で明らかになった事実にはショックを受けた。被害者の多さに驚いた」
イギリスは、祖国から逃れてきた人々に「安全な避難場所を提供してきた長い歴史を誇る国だと、私たちは信じてきた」と、ドゥディアは言う。しかし英政府は絶えず女性たちの希望を挫き、イギリスでも暴力と貧困の罠にはまるようなことを強いてきた。
106人の調査対象者の78%は、出身国で身体的な虐待や性暴力など「ジェンダー(伝統的な男女の役割意識)に起因する暴力」を受けたと述べた。およそ半数は政府当局者による暴力を受け、42%は拷問され、ほぼ3分の1は兵士、刑務所の看守、警察官にレイプされていた。
イーブリンと名乗る女性は、西アフリカから人身売買でイギリスに連れてこられ、その後6年間極貧生活を送ってきた。イギリスに行けばまともな暮らしができると思っていたが、待っていたのはさらに過酷な地獄だった。
「人身売買でイギリスに連れてこられた」と、彼女は調査スタッフに話した。「その男は私を監禁してレイプし続けた。何とか逃げ出して、難民認定の手続きをしたが、内務省は私の訴えを信じてくれなかった」
生き延びるために
イーブリンは「6年間住む場所も与えられず、何の支援も受けられなかった」という。「(路上生活は)とても辛かった」
たまたま知り合った男が自分の家に住めばいいと言ってくれたので、藁にもすがる思いで同居したという。「男はセックスを強い、私を奴隷のように扱って虐待した。逃げ出したかったが、生きるためには耐えるしかなかった」
そのうちにイーブリンは妊娠した。「酷いつわりに苦しんだが、お金がないので病院にも行けない。誰にも頼れず、とても心細かった。お金も何もないのに、どうやって子供を育てたらいいのか途方に暮れた」
イーブリンは昨年ようやく当局の窓口につながり、公的サービスを受けられることになって、最低限の生活を保障された。
「悲しいことにイーブリンのようなケースはいくらでもある」と、ドゥディアは話す。祖国で虐待されたと訴えても、信じてもらえないケースも「ざらにある」という。
調査した女性たちは、「圧倒的な絶望感にとらわれている」と、ドゥディアは指摘する。「祖国で迫害されたと訴えても信じてもらえない、内務省は助けてくれない、自分たちの訴えを誰も聞いてくれないという思い」だ。
<「疑ってかかる文化」>
ドゥディアによれば、内務省には難民認定の審査に当たって、申請者の訴えを「疑ってかかる文化」があり、「それは相手が男性だろうと女性だろうと同じだが、特に女性は不利になる」という。
「男性も性暴力や紛争の犠牲になるが、(社会的立場の弱い)女性はそれ以上に犠牲にされやすい」と、ドゥディアは説明する。祖国で性暴力を受けたと訴えを信じてもらえず、難民申請を却下され、孤立無援の状態になれば、またもや性的虐待のターゲットになりやすい。
内務省は「保護が必要なことを証明するのは、難民認定を申請した者の責任だと考えている」と、ドゥディアは言う。「あり得ないほど信頼性のある首尾一貫した供述をしなければ、申請を受け付けてもらえない」紛争地域などで、女性がいかに弱い立場に置かれ、いかに酷い性暴力の対象になっているか、内務省の職員が「実態を十分に認識していない」ことも問題だという。
イギリスで過酷な生活を強いられているにもかかわらず、「私が話を聞いた女性は全員、イギリスに留まりたいと言っていた。(本国に)強制送還されれば、生存すら保障されないからだ」と、ドゥディアは言う。
彼女たちはいつか難民認定されるだろうと、かすかな希望にすがっているが、認定を待つ間は就労もできず、公的サービスも受けられない。
うつや自殺未遂も
「今夜食べる物をどうやって手に入れようか、今夜はどこで寝ようか、生理ナプキンは手に入るか、どこかで体を洗えるか。日々そうやってもがいている女性たちには、申請手続きを進める余裕もない」と、ドゥディアは言う。生き延びるために虐待的な関係に入り、そこから抜け出せなくなる、というのだ。
イギリスでも性暴力に遭ったと答えた女性たちのうち、95%がうつ状態にあり、3分の1が自殺しようとしたことがあると答えた。
英政府がこの調査結果を見て、何らかの対策を取ることをドゥディアらは望んでいる。「今より酷い状況はあり得ないので、どんな対策であれ、一歩前進になる」