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国際 : フィリピンで警察官による“性被害”を訴える女性が続出 「検問所」が被害の温床 (2020.06.07)

日時: 2020-06-07  表示:2478回

デイリー新潮 2020/6/7

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、フィリピンでは首都マニラなどで実質的な「ロックダウン(都市封鎖)」が布告されている。何事にも「容赦なく手厳しい政策」で知られるドゥテルテ大統領の陣頭指揮だけに、数々の制限に対する違反者には、他国以上の厳しい罰則が適用されている。

 例えば、バイクの運転手に義務付けられているマスク着用。インドネシアの場合、違反者にはその場での腕立て伏せや国歌斉唱、国是(国の基本方針)のスローガン復唱、街角清掃などの社会奉仕が科される。

 一方フィリピンは、違反者には「罰金」ないし「悪質な場合は身柄拘束」という、厳罰主義で臨んでいる。一時は「違反者は射殺もありうる」などとドゥテルテ大統領が発言したこともあり、国民は規制にも比較的素直に従っているのだ。

 とはいえ、そこは融通無碍、魑魅魍魎のフィリピンのことである。あの手この手の知恵を絞って規制をかい潜り、すり抜ける輩が後を絶たない。

 フィリピンには「バランガイ」という名の自治体の最小限行政単位が定められている。コロナ禍の現在、その境界を越えて移動する際には警察などによる検問を通過しなければならず、「パス=通行証」が不可欠となる。このパスを巡る現職警察官による不祥事が発覚し、大きな社会問題となっているのだ。

 インターネット・ニュースの「ラップラー」は5月21日「コロナウイルスの検問所を通ろうとする売春婦はまず警察官に虐待される」という衝撃的な見出しの記事を公開した。

 記事では、外出自粛や夜間外出禁止などの措置で、商売上がったりの売春婦や夜の仕事の女性たちの現状が紹介される。彼女らは生活維持のため、ネットで知り合った、あるいは馴染みの「お客」の自宅に通うため、「検問所」を通らねばならない状況にある。その検問所にいる現職の警察官の中に、「パスと引き換えの“行為”」を露骨に要求してくるケースがあるというのだ。

 女性たちは生活のために、やむを得ず警察官の前で服を脱ぎ、体を開く。「ラップラー」のスクープは、警察官による「レイプ疑惑」という人権侵害、犯罪行為の実態だった。

顔見知り警察官はパスと交換で体要求

「ラップラー」の記事には、被害にあった女性らの証言が詳細に報じられている。いくつかのケースを紹介する。

 マニラ首都圏から数キロ外に住んでいるマリビックさん(仮名)は、コロナ禍の措置として配給された5キロの米とイワシの缶詰を食べつくし、次の配給まで子供や従妹ら同居する家族の食べるものがない状況に追い込まれた。SNSで連絡を取っている既婚者の男性から誘いをしつこく受けており、これまで断ってきたが、食料を買う金を得るためやむを得ず、地区の外に住む彼の家を訪問することにした。

 自宅から数キロ先の検問所にマリビックさんが着いた時、そこには顔なじみの警察官アンドレ(仮名)がいた。彼は以前からマリビックさんの「客」だった。

 マリビックさんを認めたアンドレは「検問を通るにはパスが必要だ」と言いながら暗に体を要求してきたという。彼女はやむなく了承すると、アンドレの車で彼の自宅に連れて行かれ、そこで服を脱いだ。「それはまるでレイプだった」とマリビックさんは振り返るが、行為を終えたアンドレは、パンと150ペソ(約320円)を渡したという。“体”の対価が、パスとパンと小銭だったというわけだ。その後アンドレは、マリビックさんを車に乗せ、客の元まで届けたそうだ。
客からは事後に値切られ

 マリビックさんの同業者も皆、生活苦に見舞われており、地区外で仕事をする際には同様に「職権による強制性交」を要求されている。さらに自宅に警察官が何度も訪れるケースも。「ロックダウンは普段から居丈高な警察官をより増長させている」と女性たちは取材に訴える。

 通常およそ2000ペソ(約4300円)という料金が、コロナ禍の失業や収入減を理由に、大半の客に値切られる。それも「事後」に切り出してくるから始末が悪く、料金相場は300から500ペソ(650円から1100円)にまで下がっているという。

 マニラ首都圏ケソン市にある、中流階級以上の階層の男女を顧客とするスパの経営者・ランディ氏(仮名)のケースも紹介されている。表向きはスパの営業形態をとるものの、要は性行為を含めたマッサージ業で、風俗店である。この店もロックダウンで客足がばったりと途絶えたため、携帯やSNSを駆使した営業活動で、従業員を派遣しているそうだ。

 スパの従業員である美女、そして美男も顧客のところに向かう時にやはり検問を通らなくてはならず、マリビックさんと同様、警察官からの被害に遭っているという。

国家警察長官、被害者に名乗るよう要求

 こうした警察官の不祥事が大々的に報道されたことを受け、アーチー・ガンボア国家警察長官は「我々は女性を尊敬し、その社会的役割に敬意を表す立場から今回のような事案は極めて重大な問題だと認識している」との声明を発表。その上で「社会の防疫態勢の中で権限を有する者が、その権力を悪用して女性に肉体的、性的な嫌がらせや虐待をすることは許すべきではない」と警察官を非難した。

 匿名で被害を打ち明けた女性たちに対しても「是非名乗り出て被害を届けてほしい。そうしないと事件として捜査できない」と求めた。しかし、フィリピン社会では警察組織が100%信用できないことは周知の事実。地元のフィリピン人記者は私に「名乗り出ればどうなるか。命の危険すら懸念される、それがフィリピンである」と話した。

 いくら捜査のためとはいえ簡単に名乗り出ることができない現状がある。ガンボア長官もそれを見越して発言しているのではないかとの見方も出る始末。「(不正に走る)そうした者と第一線でコロナ対策のために懸命に仕事をしているその他多数の警察官を同一視しないでもらいたい」と組織擁護とも取れるコメントもしているだけに、国民は警察への不信感をさらに深めている。

 それは長官の声明からも見て取れる。彼は「名乗り出た被害者の保護には全力を挙げるが、裁判になった場合、公判でも保護しきれるかどうかは何ともいえない。有罪にするには証人の法廷での証言がどうしても必要になるだろうから」と付言したことからもよくわかる。
夜の町はロックダウンでゴースト化

 マニラ首都圏では、カラオケなどの娯楽施設が集中するマビニ、マカティ地区などのほかにゴーゴーバーが立ち並ぶ「エドサ・コンプレックス」(通称エドコン)などの歓楽街が有名だが、強制力を伴う「コミュニティ隔離措置」が宣言された3月15日以降はいずれも営業自粛や停止に追い込まれ、街はゴーストタウンと化している。

「ラップラー」が報じた女性たち同様、そこで働いていたカラオケのコンパニオンやバーのホステス、ダンサー、売春婦といった女性たちも、生活に困窮し、路頭に迷う境遇に追い込まれている。マニラ事情に詳しい在留日本人によれば、中には普段からの「パパ活」「援交」のおかげで、男性の庇護下に入り難局を切り抜けている「目先の利く」女性もいるにはいるというが、ごく一部に過ぎないという。

「大半の女性は携帯電話やSNSで相手を必死に探す『営業活動』をして糊口を凌ぐ生活を送っています」(同)

 今回の事件に対し、女性人権組織や性暴力被害者保護団体などは、

「コロナウイルス対策で多くの女性が生活困窮に陥り、その結果として売春せざるをえない状況に追い込まれている。その弱みにみつけこむ行為は人権侵害であり犯罪である」

 と、ドゥテルテ政権に対して生活保障や経済支援策を手厚くするように求めている。

 ガンボア警察長官の呼びかけにも関わらず、警察官による性被害の実態を訴え名乗り出た女性は、これまでのところいないという。

大塚智彦/PanAsiaNews?

週刊新潮WEB取材班編集


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