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ポルノ被害 : <AV問題>キカタン女優の闇と光(下)「もっと性をオープンに」 (2016.08.14)

日時: 2016-08-14  表示:3064回

毎日新聞 8月14日(日)13時0分配信

 自ら志願してアダルトビデオ(AV)の女優となり、1年半にわたって活動した経験がある会社員の田中明美さん(仮名・30代)は、「プロの仕事に携わることができた」と当時を懐かしむ。意に反する仕事を強要されることもなく、業界にポジティブなイメージを抱いたまま引退することができたのは、「撮影内容を包み隠さず説明してくれる事務所を選んだから」と振り返り、怪しい事務所をかぎ分ける「嗅覚」の重要性を強調。一方で、周囲からの心ない中傷に悩んだ経験なども明かし、「もっと性に対してオープンな世の中になれば」と願いを込めた。【AV問題取材班】

 ◇丁寧過ぎるくらいの説明

 数年前、田中さんはとある事情で会社を辞め、実家で過ごす日々に退屈していた。「アルバイトでもしようかな」と考えた時、頭に浮かんだのがAVだった。元々、性にオープンな性格。AVプロダクション(女優の所属事務所)で働く知人がいたこともあって、「裏社会をのぞいてみたい」という好奇心にかられた。

 高収入アルバイト情報誌を買い、数社の面接を受けた。電話応対が悪いなど「常識がない」と感じる事務所が多かったが、1社だけ良識的だと思える事務所があった。面接では「女優には単体、企画単体(キカタン)、企画とランクがある」「撮影内容次第で出演料が変わる」「雑誌やテレビなどの露出媒体は自分で決められる」−−などと業界ルールを事細かに教えてくれた。多くの女優が恐れる「顔バレ」については「100%バレないようにするのは難しい」と正直に明かし、一緒に対策を練ってくれた。

 面接者はそれだけ徹底した説明の後で、「冷静に判断してください」と念を押した。田中さんは「中途半端な気持ちではできない」と覚悟を決め、この事務所に所属することにした。

 ◇「社会人経験が生きた」

 別の事務所の面接では、説明があいまいだと思うことも多かった。顔バレについて相談すると、「年間何万本ものAVが世に出ている。何人がデビューしていると思う?」とはぐらかされる。あけすけに「いくら稼ぎたいの?」と聞かれるのも不快だった。

 「私には、怪しい事務所をかぎ分ける嗅覚があった」。社会人経験があったことも大きいと感じており、「若い子だったら、これが当たり前だと思ってだまされてしまうかも」と懸念する。最近問題になっている出演強要被害についても、「私自身は見たことがない」と断った上で、「だます方はプロ。1回引っかかったら逃れられないのでは」と警鐘を鳴らす。

「私も含めて、安易に業界に飛び込む人がこの10年で増えた」と田中さん。「だからこそ(強要被害は)一度、世間にさらされないといけない問題だった。業界が一丸となって取り組んでほしい」。世話になったAV業界から、悪いニュースばかりが聞こえてくるのは悲しい。

 ◇仕事への「誇り」と周囲の目

 単体女優でスタートし、徐々に人気が落ちてキカタン、企画女優と活動の形を変えていくケースは多いが、その逆をたどるケースはまれだ。

 田中さんはランクや出演料は低いが「顔バレ」しにくい企画女優として歩み出した。撮影は月に3本程度。パッケージに顔も載らないような端役でも、スタッフは気遣ってくれた。「部屋やシャワーの温度を気にしてくれたり、撮影ギリギリまでガウンを脱がないようにしてくれたり」。苦労がなかったわけではないが、女優を支える「プロ」たちの仕事ぶりに驚き、魅了されることのほうが多かった。

 夢中で働くうち、企画女優の中でも人気の抜きんでた“キカタン”に成り上がっていた。撮影は多い時で月に20本。メーカーから「専属女優(単体)にならないか」と誘われたこともあったが、「一生続ける仕事ではないから」と冷静に断った。

 仕事にやりがいを感じていたものの、ごく一部の親友を除き、周囲にAV出演を明かすことはなかった。AV出演が悪いことだとは思わない。でも、その考えが社会にすんなりとは受け入れられないことも分かる。「引退して別の場所で働く時がくる。その時のためにも、絶対に秘密にしなければ」。撮影中にあった笑える出来事や有名な男優に会ったことなど、何気ない話を友人にできないのがつらかった。一方、学生時代の友人男性らが田中さんのAV出演に気付いてうわさしていることもわかり、隠し通すことの限界も感じていた。

 そのころ、田中さんはある男性と出会う。意気投合し、交際に発展しそうな雰囲気になった。「お付き合いするなら、知っておいてほしいことがある」。AV出演を明かすと、「それでも交際したい」と言ってもらえた。

 交際が始まると、AV出演を受け入れられない彼の苦悩を感じた。「誰かを傷つけるために始めた仕事じゃないから」と引退を決意。ただ、撮影スケジュールは半年先まで埋まっていた。申し訳なく思いながらも、すべての撮影を終えて引退。ほどなくして男性と結婚した。

 ◇正しい情報の発信を

 出産して母にもなった。ふと、怖くなることもある。「夫の両親や子供が知ったらどう思うだろう」「みんな知らないふりして、本当は知っているのかも」。結婚前、夫の友人がたまたま田中さんの出演作を見てひどい言葉をかけてきたことがあった。田中さん自身は「顔バレ」もある程度覚悟してきたが、家族が嫌な思いをするのはやはりつらい。

 AV女優として働くことの魅力や楽しさ、そしてリスク−−。「臭い物にふた」をするのではなく、正しい情報を発信していくことで偏見や強要などの被害を減らすことができると信じている。「性はもっとオープンでいい。そうすれば、若い子が無知なままチャレンジすることもなくなるから」。いつか、何らかの形で性にまつわる啓蒙(けいもう)活動に携わりたいという夢も膨らんでいる。(おわり)


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