7月29日7時59分配信 産経新聞
■人手不足、対応に限界も
平成21年度の児童虐待相談対応件数が過去最多を更新した。虐待死が後を絶たない中、強制立ち入り調査が実施可能となった20年度(2件)よりもさらに少ない1件にとどまり、「伝家の宝刀」の運用に慎重な現場の姿勢が浮き彫りになった。
児童虐待に詳しい東海学院大の長谷川博一教授(臨床心理学)は「多数の死亡例が報告される中、強制立ち入り調査が1件しかないというのは少なすぎる。児童相談所の職員が虐待の可能性を疑っても、『もし、間違っていたら人権侵害になる』という躊躇(ちゅうちょ)があるからだろう」と推察する。
「虐待をする親の多くは周囲からの支援を必要としている。早めの対応が必要だが、児童相談所では児童福祉司が足りず、自治体も支援しきれていない」。こう語るのは児童虐待防止全国ネットワーク理事長で駿河台大法学部の吉田恒雄教授(児童福祉法)だ。
実際、財団法人「こども未来財団」が20年4月、全国の児童相談所など約200カ所を対象にした調査では、職員や人件費の削減計画によって約4割の自治体が「児童福祉司の増員は困難」と回答。相談件数が増えても、対応に限界がある児童相談所が多いのが現状だ。
死亡事例の検証専門委員会の座長で14年間、児童福祉司として児童相談所に勤めた経験のある関西学院大学の才村純教授(人間福祉学部)は「強制立ち入り調査は最後の手段になる。数が少ないからといって、児童相談所の取り組みが消極的とはいえない」と分析。
その上で「自治体によって虐待への対応に差があるのは事実だ。きちんと立ち入り調査ができていない児童相談所があることも考えられる。自治体には体制強化を図ってほしい」と訴えている。