西日本新聞 2021/7/14(水) 9:51配信
痴漢の被害経験があるとした人の約9割が警察に被害を届け出ていない―。福岡県警鉄道警察隊(鉄警隊)が13日に公表したアンケートで、被害者が声を上げられない実態が改めて浮き彫りになった。自由記述欄では「痴漢に対する世間の認識が軽すぎると思う」など、社会の意識の変化を求める声が相次いだ。
アンケートは被害者の心情などを把握し、今後の捜査や被害防止に生かそうと2〜3月に実施。インターネットで呼び掛け、県内外の3039人が回答した。約3分の2が高校、大学生だった。
「被害経験がある」と回答した人は775人で、うち女性が729人、男性は46人。64%が複数回の被害経験があり、場所が鉄道車内だった人が62%に上った。
被害に遭った際の行動を尋ねたところ(複数回答)、「我慢した」「怖くて何もできなかった」などとして抵抗できなかったとの回答が71%を占めた。その後の対応について回答した人のうち、42%が誰にも相談せず、92%は警察に届け出ていなかった。「被害者が悪いと言われると思った」「逆恨みが怖かった」などの理由だった。
自由記述欄で20代の会社員の女性は「『痴漢ぐらいで』とか『露出している服を着ていたせいだ』という声があるが、自由にファッションを楽しんだだけで被害に遭わないといけないのか。社会の意識を変えてほしい」と訴えた。「列車内はスマートフォンを見ている人ばかりで助けを求めにくいと感じる」との声もあった。
鉄警隊はここ数年、鉄道各社との情報共有を密にして痴漢情報の把握に努めたほか、私服で捜査する隊員を増やすなど対策を強化。福岡県内での痴漢や盗撮を含む鉄道関連の性犯罪の摘発件数は2015年の14件から年々増加し、19年は90件になった。
酒見孝徳副隊長は「女性の被害者には女性警察官が対応するなど、被害者に寄り添った対応を心掛けているので、勇気を出して相談してほしい。目撃した人は加害者の特徴を覚えてすぐに110番してもらいたい」と話した。
(小川勝也、田中早紀)
同意のない性的な行為は犯罪
性暴力被害者支援センター・ふくおかの浦尚子相談員の話 センターにも痴漢被害について相談が寄せられ、被害者が「痴漢ぐらいで相談していいのか分からなかった」と打ち明けるケースもある。痴漢の被害が軽視されていることの表れだが、被害者の心の傷は深い。学校現場では、同意のない性的な行為は犯罪だということ、体操服で隠れる部分は「プライベートゾーン」として触らせてはいけないことなどを教える動きが広がってきた。被害者が1人で抱え込まないように、そして傍観者をつくらないために、社会全体が痴漢は許さないという意識を共有してほしい。