毎日新聞 4月11日(金)8時1分配信
神奈川県伊勢原市で昨年5月、ドメスティックバイオレンス(DV)の果てに離婚した元夫(33)に路上で刺され、瀕死(ひんし)の重傷を負った30代女性が毎日新聞の取材に応じた。事件前、元夫からの襲撃の不安を訴える女性のSOSを、警察を含めた周囲は真剣に取り合わなかった。心身の傷が今も癒えない女性は「被害者の思いを、そのまま受け止めてほしい」と繰り返した。【河津啓介、藤沢美由紀】
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<DV>離婚7年後に襲撃被害 「不安」周囲に伝わらず
毎日新聞 4月11日(金)8時1分配信
<DV>離婚7年後に襲撃被害 「不安」周囲に伝わらず
「出所後にまた襲われるのでは、と真剣に恐れています」。女性はいまもフラッシュバックや悪夢に悩まされている=河津啓介撮影
神奈川県伊勢原市で昨年5月、ドメスティックバイオレンス(DV)の果てに離婚した元夫(33)に路上で刺され、瀕死(ひんし)の重傷を負った30代女性が毎日新聞の取材に応じた。事件前、元夫からの襲撃の不安を訴える女性のSOSを、警察を含めた周囲は真剣に取り合わなかった。心身の傷が今も癒えない女性は「被害者の思いを、そのまま受け止めてほしい」と繰り返した。【河津啓介、藤沢美由紀】
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女性が、大学で知り合った元夫と結婚したのは2004年のことだ。待っていたのはささいな理由での暴力と罵声で虐げられる日々だった。相手の機嫌を損ねないよう神経を擦り減らした。
「膨らんだ風船がいつ破裂するかというようにおびえ続けた。緊張が解けるのは殴られる瞬間だけ」と振り返り、毎日の生活を「『痛み』と『痛み』の間にずっと続く『恐怖』がある。それが全てだった」と表現した。
会社勤めの女性が家計を支えていたが、逃げようとは考えなかった。奴隷のような扱いに正常な判断力さえ奪われ、「自分は駄目な人間。この人の元でしか生きられない」と思い込んでいた。
05年末、妊娠中に実家に逃れた。突然、「家を出て大丈夫じゃないか」との考えが浮かんだからだ。翌年離婚が成立したが、元夫は「どこまでも追い詰める」と言い放った。
寄る辺のない土地の避難施設に移り、パートで働いた。育児に追われ、身も心も疲れ果て倒れたこともある。いつか元夫が襲ってくると考え、親子で偽名を使って家族にも居場所を伏せた。口座開設や病院の診察では本名を明かさなければならず、「元夫の知り合いが見ないように」と祈りながらペンを握った。
それでも暴力のない世界は人間らしさを取り戻させてくれた。耳に入る音楽を「いいな」と感じ、起きる時間や食べ物などを選べる幸せは、硬い心を少しずつほぐした。
昨年5月。小学生になった長男と自宅近くを歩いていたときだった。後ろから突然大きな衝撃を感じた。骨が削れるほどの力で刺され、体内の血液の半分を失ったが、奇跡的に命は取り留めた。
殺人未遂罪などに問われた元夫は昨年12月に懲役12年の判決を受け、服役した。それでも女性は身を隠す生活を続けている。
「事件前と不安は変わらない。次は助からないでしょう。離婚しても7年後に襲撃された。懲役12年だからといって安心できる要素がありますか」
事件前、切羽詰まった不安を周囲に訴えても「思い詰めない方が良い」「考えすぎ」と言われた。危機感が伝わらず、失望し孤独を深めた。最後のとりでの警察にも切迫性はないと判断された直後の惨事だった。
「警察官らの受け止め方次第で命が左右されないようになってほしい」。女性は祈るように求める。DVに苦しむ女性に向け「人間らしい感覚まで奪われ被害の自覚がない人もいるでしょう。まず『逃げていい』と気付いてほしい」と語った。
◇事件の概要
2013年5月21日朝、神奈川県伊勢原市の路上で、女性が元夫に牛刀(刃渡り約18センチ)で首などを刺され重傷を負った。元夫は離婚した06年、裁判所からDV防止法に基づく計1年間の接近禁止命令を受けたこともあり、女性は地元市役所に住民基本台帳の閲覧制限をかけていたが、元夫は探偵などを使って女性の住所を特定した。事件1カ月前、女性は自宅近くでカメラが取り付けられた自転車を見つけて県警伊勢原署に相談したが、探偵業関係者の所有と判明しながら署員は女性に連絡しなかった。別の署員も、類似した状況が2年前にもあったという情報を女性から得ながら上司に報告しなかった。県警は昨年7月、女性や子どもに対する危険情報を集約し、現場で被害者保護や加害者の逮捕にあたる「人身安全事態対処プロジェクト」を発足させた。