朝日新聞 2020年3月12日 17時21分
当時19歳の娘に性的暴行をしたとして、準強制性交等罪に問われた父親(50)に対する控訴審判決。名古屋高裁は12日、一審の無罪判決を破棄し、父親に懲役10年の有罪判決を言い渡した。判決後、被害者がコメントを発表。性暴力に耐えていた当時の心境を「次第に私の感情もなくなって、まるで人形のようでした」とつづった。全文(原文のまま)は以下の通り。
今日の名古屋高等裁判所の判決を受けて(令和2年3月12日)
1.私は、実の父親からこのような被害を受けてとても悔しい気持ちでいっぱいです。
「逃げようと思えば逃げられたんじゃないか。もっと早くに助けを求めたらこんな思いを長い間しなくて良かったんじゃないか…」。そう周りに言われもしたし、そのように思われていたのはわかっています。
でも、どうしてもそれができなかった一番の理由は、幼少期に暴力を振るわれたからです。
「だれかに相談したい」、「やめてもらいたい」と考えるようになったときもありました。そのことを友達に相談して友達から嫌われるのも嫌だったし、警察に行くことで弟達がこの先苦労するのではないかと思うと、とても怖くてじっと堪え続けるしかありませんでした。
次第に私の感情もなくなって、まるで人形のようでした。
被害を受けるたび、私は決まって泣きました。「私にはまだ泣ける感情が残っている」ということ、それだけが唯一の救いでした。
私が一人っ子だったら、何も迷わずにもっと早くに訴えられていたかもしれません。やっぱり大切な弟たちのことが心配だったのです。
そんな弟たちと離れなくてはいけなくなること、生活が大変になるかもしれないこと、ただそれだけを考えると、嫌でも仕方なくてじっと我慢するしかできませんでした。
今も弟たちに会いたい。話したい。その気持ちでいっぱいです。今も会えないのは苦しいです。
2.二度と会いたくないのは、父親です。あの人が私の人生をぶち壊したんです。
返してください。私のこの無意味に空費した時間を!気に病んだ時間を!全部返してください。やってみたかったこと、本当はいっぱいありました。でも全部諦めました。
今、すべてのことを振り返ってみると、ひたすら悔しい気持ちです。父との毎日は非常識であり、ただただ気持ち悪かったです。どうしたらあんなことができるのか、わかりません。
私たちはただ普通に暮らしたいのです。暴力も暴行も、無慈悲な言動のない普通の生活がしたいんです。もう二度とこんな思いはしたくありません。
これから私は無駄にしてしまった時間を精一杯埋めていきたいので、邪魔しないでもらいたいです。私は父を許すことは絶対にできません。
不安と苛立ちに押しつぶされそうな苦しい毎日でした。そして今も同じです。私や弟たちの前に二度と姿を現さないでほしいです。
3.無罪判決が出たときには、取り乱しました。荒れまくりました。仕事にも行けなくなりました。今日の判決が出て、やっと少しホッとできるような気持ちです。
昨年、性犯罪についての無罪判決が全国で相次ぎ、#MeToo?(ミートゥー)運動やフラワー・デモが広がりました。それらの活動を見聞きすると、今回の私の訴えは、意味があったと思えています。なかなか性被害は言い出しにくいけど、言葉にできた人、それに続けて「私も」「私も」と言いだせる人が出てきました。私の訴えでた苦しみも意味のある行動となったと思えています。
4.私が訴え出て、行動に移すまでにいろいろな支援者につながりました。しかし、「本当にこんなことがあるの?」と信じてくれる人は少なかったです。失望しました。疑わずに信じてほしかったです。
支援者の皆さん、どうか子どもの言うことをまず100%信じて聞いてほしいのです。今日、ここにつながるまでに、私は多くの傷つき体験を味わいました。信じてもらえないつらさです。子どもの訴えに静かに、真剣に耳を傾けてください。そうでないと、頑張って一歩踏み出しても、意味がなくなってしまいます。子どもの無力感をどうか救ってください。私の経験した、信じてもらえないつらさを、これから救いを求めてくる子どもたちにはどうか味わってほしくありません。
5.私は、幸いにも、やっと守ってくれる、寄り添ってくれる大人に出会えました。同じような経験をした多くの人は、道を踏み外してもおかしくないと思います。苦難を生きる子どもにどうか並走してくれる大人がいてほしいです。
最後に、あの時の自分と今なお被害で苦しんでいる子どもに声をかけるとしたら、「勇気を持って一歩踏み出して欲しい」と伝えたいです。一人でもいいから、本当に信用できる友達を持つことも大切だと思います。
以上
被害者Aより