Newsweek 2020/7/21(火) 18:13配信
本来はポルノが禁止されている韓国。だが闇の世界では異常な犯罪がうごめいていた......
スマートフォンの普及により、インターネットがいつでもどこでも使えるようになって便利な世の中になった反面、ネット上での犯罪も増加している。特にネットでの性犯罪といえば、今年の初め日本でもニュースになった「N番部屋事件」は韓国を激震させた。性搾取されていた被害者には未成年者も多く衝撃的な事件だったが、今度は世界最大の児童ポルノサイトをめぐって、韓国で更なる騒動が巻き起こっている。【ウォリックあずみ】
世界最大の児童ポルノサイトと言われている「ウェルカム・トゥー・ビデオ」は、2015年6月から韓国人ソン・ジョンウによって開始され、彼が警察に捕まる2018年3月まで運営されていた。冒頭に書いたN番部屋は、2018年の後半に運営開始されているので、それよりも先に作られている。N番部屋では、海外のメッセージアプリ「テレグラム」のチャットルームでやり取りされていたが、この「ウェルカム・トゥー・ビデオ」は、特殊なブラウザーを通じてのみ接続できるようになっており、ダークウェブと呼ばれる方法で運営されていた。
<3年間で4億円を荒稼ぎ>
全世界に100万人以上の会員をもち、サイト上には8歳の幼女の性器など、常識では考えられないような幼児ポルノを約20数万点以上掲載していた。韓国の報道によると、約3年間の収益は、四十数億ウォン(=約4億円)と発表されている。
ソン・ジョンウは、すでに韓国で性搾取物を配布した疑いなどで1年6カ月の実刑が確定し、服役中だった。ところが出所満期まで10日を控えた今年4月、アメリカ法務省から犯罪人引渡し請求の対象になったと連絡が来た。アメリカの検察はソン・ジョンウへ「児童わいせつ物配布」など9件の容疑を適用して裁判所に起訴した後、韓国政府に犯罪人引渡しを請求したのだ。
引渡し請求を受けた韓国法務省は、ソン・ジョンウ引き渡し逮捕状を発行した後、ソウル高等裁判所に犯罪人引渡し審査を請求した。
ところが、今月6日ソウル高等裁判所は法務省の引渡し請求を棄却する決定を下し物議を醸すこととなる。ソウル高等裁判所は、アメリカにソン・ジョンウを引渡した場合、「二重処罰の危険がある」としている。さらに、「サイトの会員の大多数が韓国人だったこともあり、会員の捜査もこれから行われるという時に海外へ引き渡せない。」また、「犯罪人をさらに厳しく処罰する場所へ送るのは、犯罪人引渡し制度の趣旨ではない」というのがソウル高等裁判所の主張だ。
米国に引き渡されると懲役数十年の可能性
韓国の「犯罪人引渡し条約」によると、韓国領域にいる犯罪人が韓国と請求国の法律によって死刑、無期、1年以上の懲役に相当する罪を犯した場合、請求国に引き渡すことができることを規定している。
ただし、「公訴時効が完成された場合」「その犯罪について韓国の裁判所で裁判が遂行中もしくは確定された場合」「犯罪人が宗教、政治的信念などの理由で処罰される心配があると認められた場合」などには引き渡しを拒否できる。さらに、「犯罪人が韓国国籍である場合」「大韓民国領域で起こした犯行の場合」なども、任意的引き渡し拒絶事由として拒否が可能だ。
余談だが、「犯罪人引渡し条約」と言えば、日本はたった2カ国としか条約を締結していないのはご存じだろうか。その2カ国とは、アメリカと韓国である。取引国が極端に少ない理由は大きく2つあると言われている。1つは「日本は島国であり、海外に逃げたり、犯罪者が日本へ逃亡してきたりしても、出入国管理体制がしっかりしている為水際で出入国を食い止めることができる」そして2つ目は「死刑制度が残っている為、犯罪者を引き渡すと死刑にされる可能性がある為」である。
さて、ソン・ジョンウだが、韓国ではたった1年半の刑期で済んだものの、もしもアメリカに引き渡されて裁判で有罪になれば数十年は刑務所の中にいることと言われる。そのことを察してか、あの手この手でアメリカ行きを阻止しようとしていたようだ。
<父親が起訴、米国引き渡しの阻止狙う?>
ソン・ジョンウの父親は、アメリカからの引き渡し要請があった1カ月後、息子が自分の名前を勝手に利用して通帳を作ったことや、サイトの運営で手に入れた金についてマネーロンダリングしたなどの犯罪を警察に通報し、少しでも刑期を追加してアメリカに行かせないようにした疑いがかかっている。この容疑について今月17日には、父親が警察に出頭し事情聴取が行われた。
さらにソン・ジョンウは、2審の審理が終わった2019年4月16日の翌日、婚姻届けを提出している。実は、1審で3年の刑期が言い渡されていたのだが、2審では1年6カ月に減刑されている。その理由は「2019年4月17日婚姻届書を提出し、扶養する家族が生じた為」と言われている。刑が決定し宣告されるまでの間に急遽提出した婚姻届書が量刑に勘案されたとし、今韓国ではこの結婚の真偽までが疑われだしている。
ソウル高裁の決定に国内外から批判
刑の軽さ、またアメリカへの引き渡し拒否が大きく報道されると、海外からの批判も相次いだ。イギリスBBCのソウル特派員であるローラ・ビッカー記者は、自身のTwitterで「韓国検事は、空腹のため卵18個を盗んだ男性に18カ月型を求刑した。 そして、世界最大の児童ポルノサイトを運営したソン・ジョンウにも同じ期間の刑量を下した」と、皮肉めいたツイートを投稿した。さらに、「その(サイトの)犠牲者の中には、生後6カ月になったばかりの赤子もいた」と続けている。
続いて今月6日NYタイムズ紙は、「このサイトを通じ、児童性搾取動画をダウンロードしたアメリカ人男性でさえ懲役5〜15年を宣告された」とソン・ジョンウの刑期の短さを批判した。
韓国の世界日報によると、児童性搾取根絶を訴える非営利団体ECPAT Internationalの研究事業部局長マリーロール・ルミノーは、インタビューで「アメリカならば数十年の判決が言い渡されるだろう。韓国は児童性搾取による犯罪の法的処置が軽すぎる」と語ったと報じている。
<韓国の市民団体は英独に引き渡し要請するよう求める>
もちろん、韓国国内でも判決結果を批判する声が高まり、今月7日には最高裁判所前で女性団体を中心としたグループがデモを行った。またアメリカ以外の海外にも、このサイトの利用者や被害者がいて、韓国と犯罪者引き渡し条約を結んでいるイギリス、ドイツなどに、ソン・ジョンウの引き渡し要請をしてほしいと働きかけもはじめている。
この騒動を通して、韓国は性搾取に寛大すぎると世界からブーイングを受けているが、日本でも同じような批判は少なくない。特に今回の被害者は未成年者である。これを機にこのような犯罪が二度と起こらないよう世界的に取り締まりの強化を望むとともに、被害者の心のケアとプライバシーをしっかりと守って捜査を進めてほしい。