産経新聞
2011/08/13 23:00更新
【衝撃事件の核心】
店舗のない派遣型風俗デリバリーヘルス(デリヘル)を全国で62店経営し、業界内で「デリヘル王」として知られていた韓国籍で都内に住むコンサルタント会社社長の男(47)が7月、デリヘルを偽装して禁止地域で個室風俗店を経営していたとして、警視庁保安課に風営法違反容疑で逮捕された。一流私立大学出身で、高級外車でカーレースに出場するなど“セレブ生活”を満喫していたデリヘル王。その華麗なる経歴と違法風俗の“錬金術”に、捜査関係者や風俗業界関係者への取材から迫った。(西尾美穂子)
■多彩な女性を紹介、同じビルのレンタルルームに案内
東京都品川区東五反田、JR五反田駅近くの雑居ビル1階にある「デリヘル受付所」。ここには、連日、多くの男性客が訪れていた。
「お客様、初めてのご来店ですか」
「どの女の子がよろしいですか」
受付所に入ったある男性客は、店員から写真のパネルを見せられ、こうもちかけられた。
熟女系、人妻系、お嬢様系、SM系、美人系…。パネルには、ワンピースや水着などを着たさまざまなタイプの女性たちが写っており、一人一人について年齢や血液型、3サイズなども示されている。
男性客は十数分かけてパネルを吟味。「じゃあ、この人で」と写真を指さすと、続いて店員からサービスのコースを選ぶようにいわれた。基本料金は30分1980円〜90分1万5千円。500円〜3千円の追加料金を払うと、パンティーストッキングを持ち帰れるなど、複数の「オプション」も付けられるようになっている。
男性客がコースを1つ選ぶと、サービス料とは別に、「部屋代」として2100円も求められた。
2階のレンタルルームに案内され、言われるままに「部屋代」を支払うと、指名した女性が現れた。
受付から階段を上がってすぐの部屋は、2〜3畳のベッドとテレビしかない。その小さな部屋で、女性のサービスは始まった…。
■ビル丸ごと管理 偽装デリヘルの実態
社長が経営していたこの「デリヘル」。ホテルや自宅にいる男性から電話を受け、デリヘル嬢の派遣をするほかのデリヘルとは違い、客に受付場所に来させ、同じ建物の中で、性的サービスを受けさせていた。「デリヘル」といいながら、店舗型の風俗店と、ほとんど変わらないシステムだ。
男性客にはサービス料とレンタルルームの部屋代を分けて支払わせているが、それも形式だけ。このビル内には、デリヘル6店と受付所2カ所、プレールーム(レンタルルーム)26室、風俗嬢待機部屋、すべて社長の管理下に置かれていた。
こうした営業方式は、デリヘルを偽装しているだけで、店舗型風俗店と変わらない。保安課は、こう認定して、社長を逮捕したのだった。
逮捕容疑は、7月6日午後3時ごろ、風俗営業が禁止されている品川区東五反田の雑居ビル内で個室マッサージ店を営み、男性客を相手に、女性従業員に性的マッサージをさせたなどとしている。
店舗型の風俗店は住宅地や教育施設などがある風俗営業禁止地域では営業できないが、デリヘルを偽装すれば、どこでも営業できる。ほかに港区新橋でも、社長が関係するデリヘル4店が、似たような営業をしていたとして、店の担当者らが摘発されていた。「デリヘル王」と呼ばれた社長だが、経営店の中には、実質的にデリヘルではない店が複数あった。
■有名私立大卒から「デリヘル王」へ
社長は、もともと名門大学を卒業した“エリート”金融マンだった。
捜査関係者によると、20代で慶応大学経済学部を卒業し、信用金庫で働いていたが、平成2年に退職。家庭教師などの職を転々とし、11年、30代後半で、横浜市内でデリヘル経営を始めた。
このデリヘルが成功。15年には、東京都内に進出するようになり、同時に、「コンサル面からも風俗の営業に携わりたい」と風俗営業のコンサルタント会社を立ち上げた。
18年から20年にかけては、風俗店を総合的にプロデュースするために、次々と関連会社を設立。インターネットのホームページを制作するウェブ会社、風俗嬢や社員を教育し派遣する人材派遣会社、風俗店の宣伝をする広告宣伝会社、ホテルの清掃会社…。立ち上げた会社は30法人以上に上った。
「風俗だってビジネス。先見性を持てば全国展開も夢ではない」。社長が関係する会社のホームページには、こんな言葉が掲げられていた。
従業員には、他店の値段やサービスを調査させるなど、シビアなビジネスを展開。地方進出にも積極的で、富山県にも出店したほか、新潟県への進出も狙っていたという。
■豪華な私生活 大物芸能人とカーレース
デリヘル王の私生活も、豪華そのものだった。
保安課によると、社長が住んでいたのは、港区高輪の閑静な住宅地にある高級マンション。
フェラーリなど高級外車7台を所有していた。昨年10月には、国内で開かれたクラシックカーレースに5千万円以上はすると思われる高級外車「メルセデスベンツ 300SL ロードスター」で参加。4日間で約1500キロを走破するこのレースで、大物芸能人や元F1レーサーなど多くの一流の参加者とドライビングテクニックを競った。
違法風俗店でどれだけ利益を得ていたか、全体像はまだ明らかになっていない。しかし、同課によると、摘発された東五反田の「デリヘル」だけで、今年1〜7月に約2億7千万円を売り上げており、捜査関係者は「全体では相当な額になるはず」と推測する。
■風俗界のディズニーランド? 社会問題化する偽装
成功の影で、平成20年ごろから偽装デリヘルという違法風俗店の営業も始められていた。同年9月、摘発された東五反田の店を開店、翌年には新橋にも次々と同じような店を開いた。
「デリヘルはコストがかかる。実質的に店舗型にして、より高い利益を上げようとしていたのではないか」。ある捜査関係者はこう推測する。
ホテルなどにデリヘル嬢を派遣する“本来の”デリヘルでは、デリヘル嬢を送り迎えする必要があるため、運賃や運転手の人件費がかかってしまう。男性客とデリヘル嬢との間でトラブルが起きた場合も、処理が難しい。
店舗型のほうが経営コストは低くすむが、営業禁止地域が多いため、簡単に開店できない。結局、行き着いたのは偽装デリヘルだった。こうした偽装デリヘルは、いまほかでも問題になりつつある。
禁止地域の規制を“無視”して住宅地区の近くに開くこともできるため、住民とトラブルになることも少なくないうえ、学校などの近くにできれば、子供たちにも悪影響を与えるからだ。
「風俗界のディズニーランドに」。社長が関係する会社のホームページには、こんなスローガンが掲げられていた。風俗ビジネスで、独自の地位を築き、トップを目指す。そんな“夢”を抱いていたのかもしれないが、偽装デリヘルは、子供たちに夢を運ぶテーマパークとは、まったく異質であることはいうまでもない。
保安課によると、社長は調べに対して容疑を認め、今月5日、風営法違反の罪で略式起訴された。