2013年02月23日 産経新聞
警視庁が全国初となる一斉摘発に踏み切ったマッサージ店「JKリフレ」。都内の17店舗を家宅捜索し、18歳未満の高校生に添い寝などをさせていたとして、うち4店舗の店長ら4人を労働基準法(年少者の危険有害業務の就業制限)違反の疑いで逮捕した。東京・秋葉原で誕生したといわれる同店は、大阪・日本橋の通称「でんでんタウン」でも急増。体に密着した個室マッサージや2人きりの店外“散歩”…。警察が「客に性的な興奮を与える有害な業務」と判断した実態とは−。
来店多ければ“教頭”に…「体重のせマッサージ」も
「JK」とは女子高生を意味する隠語や符号で、「リフレ」は「リフレクソロジー」(足裏マッサージ)の略で、女子高生によるマッサージというコンセプトの店の総称として使われている。
アニメショップやパソコン店が並ぶ西日本有数の電気街「でんでんタウン」の通称「オタロード」。「リフレどうですか」「高校生です」。制服姿のまだあどけない少女が通行人の袖を引く。
「いらっしゃいませ」。**(29)が入店すると、6、7人の少女が出迎えた。夏服や冬服のセーラー服にブレザー。従業員は色も種類もさまざまな制服に身を包み、膝が完全にあらわになるほどスカートは短い。店内は15畳ほどで、折り紙で作られた飾りや黒板風のメニュー板が学校を彷彿(ほうふつ)させた。
ホームページ(HP)によると、同店のコンセプトは「先生」である客が、「生徒」の従業員を育成するというもの。指名数に応じた従業員のランキングがあり、HPでは「推しメン(推すメンバー)をトップに押し出すことができます!」と人気アイドルグループを意識した一言が添えられていた。客も来店回数に応じて教育実習生から教頭まで“昇進”するシステムだ。
黒髪のボブ、白と紺色のセーラー服にハイソックス姿の少女が記者に駆け寄り、「基本のマッサージコースが3千円、人気の体重のせマッサージコースは5千円です」と説明した。「体重のせコースって?」と聞くと、「生徒が先生の腰にまたがってマッサージするんです」という。
体重のせコースを頼むと、カーテンで仕切られた個室に案内された。広さは1・5畳ほどで薄いマットと枕が並ぶ。「じゃあ やっちゃいますね」。少女が記者の背中に腰を下ろすと、シャツ越しに少女の体温が伝わってきた。マッサージは肩や背中をなぞるようにたたき、お世辞にもうまいとはいえない。
聞けば、少女は18歳で大阪府内の高校3年生だという。昨年秋ごろから働きはじめ、2週間後に卒業を控えているそうだ。「本当に高校生なの?」と聞くと「本当だよ」と口をとがらせ、「現役(高校生)の方が少ないけど、全部で40人くらい働いてる。大学生とかもいるけど、中には16歳の子もいるよ」と明かした。「18歳未満の子は何人くらいいるの?」という問いには「知らない。これ内緒だよ」と人さし指を口に当てた。
「人気メニューは」と尋ねると、「大好きハグとか」。オプションのため別料金が必要で、「先生が生徒を後ろから抱きしめるの」という。客には評判のサービスだったが、東京でJKリフレが摘発されてから慌てて廃止されたという。
2人きりの店外散歩
「これ、いいでしょ」。少女が携帯電話の充電器を見せ、「お客さんに買ってもらったの」と得意げに話した。メニューには従業員と店外で自由に過ごせる「散歩コース」があり、衣服や電子機器などをプレゼントする客もいるという。「制服のカーディガンが欲しい。あと靴も。近くで売っているシュークリームも食べたいな」。話題はいつの間にか、少女のほしいものになっていた。
「お客と歩いてるときに友達に会ったときがあって、ちょっとおじさんのお客だったから友達の前じゃ知らない人のふりをしちゃった」と笑い、「でも○○(記者の名前)さんならかっこいいから紹介してたかも」。口車にのせられ、マッサージが終わって散歩コースを頼むと、料金は1時間8千円だった。
私服に着替えた少女と歩いて10分ほどの百貨店に向かった。店内の衣料品店に着くと、少女はレディースコーナーに一直線。茶色のカーディガンを手に取り、「こういうのが欲しかったの」。3千円を払って購入し、商品を渡すと「あと靴も見ていいかな」。百貨店の前の店に入ると、「あーこれかわいい。これも。欲しいなあ」と記者と靴に交互に目をやる。千円と安価ということもあり「買おうか?」という記者に「本当に?」と目を輝かせた。
両手に買い物袋を抱え、少女と帰路に。親への不満や卒業後の進路、つきあい始めたばかりの彼氏の話など、次々と話題を変えて話す横顔はどこにでもいる普通の高校生だ。この仕事を始めた理由は「うーん。何となく。誘われたから」。「色んな人と話せるこの仕事が好き。高校を卒業しても続けるつもり」という。
オタロードに戻るころには辺りはすっかり暗くなり、酔ったサラリーマンの姿も。「じゃあね。カーディガンと靴ありがとう。また来てね」。少女は笑顔で記者に手を振り、ネオンの輝く繁華街へ姿を消した。この日払った総額は、店への1万4千円と女性へのプレゼント4千円の計1万8千円だった。
少女の若さを売り物に…
医療や性風俗としてのマッサージ店は国家資格や市区町村などへの届け出が必要だが、リラックスを目的としたJKリフレのような店は特に規制はされていない。地元商店街の関係者によると、東京・秋葉原では5〜6年前から、オタロードでは2〜3年前からJKリフレが誕生したという。
オープンの気安さから店舗が急増し、競争が激化。“リアル”志向にこたえて客足を確保したい店側と「楽に稼げる」という少女の安易な思惑が一致し、未成熟な少女の若さを売り物にした違法店舗が誕生したとみられる。警視庁は1月27日に都内17店舗を家宅捜索し、115人の少女を保護した。そのうち76人が18歳未満だったという。「客にわいせつ行為を要望された」と話す少女もおり、警視庁は児童買春行為がなかったかも調べている。
店外散歩といったメニューでは、カラオケなど個室で2人きりになることも多く、記者を接客した少女も「私も後ろから胸を触られたことあるよ。何も言えなかったけど」。「怖くないの?」と聞くと、「ほとんどの人は優しいし、ひどいことする人なんてめったにいないから大丈夫だよ」と無邪気な笑顔を見せた。
記者の担当は警察取材。少女の笑顔に、これまでの取材で知った思いがけず凄惨(せいさん)な事件に巻き込まれた女性らの姿が重なり、胸が痛んだ。
ある捜査関係者は「どれだけ少女らに優しい顔を見せていても、ほとんどの客の目的は密着サービスなどの性的なもの」と指摘。「児童買春の温床にもなりかねないし、少女らを傷つけてでも目的を遂げようとする輩(やから)が出てもおかしくない。少女らはあまりにも無防備で、自分たちが被害者になる可能性を考えもしない。被害にあってからでは遅い。違法店舗は何としてもつぶさなくてはならない」と話した。