ポルノ・買春問題研究会
論文資料集10
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図書ライブラリ : ポルノグラフィと性差別


書籍名ポルノグラフィと性差別
出版社Catharine A. MacKinnon(原著), Andrea Dworkin(原著), 中里見 博(翻訳), 森田 成也(翻訳)
解説  本書の2人の著者、アンドレア・ドウォーキンとキャサリン・マッキノンは、そのラディカルな思想と活動によってアメリカ社会で常に注目を浴び、最も尊敬を集めてきた――それゆえ支配的男性から最も恐れられてきた――フェミニストであるといえよう。ドウォーキンは、1970年始めから性暴力、ポルノグラフィの問題に正面から取り組んできたフェミニスト作家である。マッキノンはフェミニスト法学者で、1970年代半ばからセクシュアル・ハラスメントに対する法廷闘争および立法活動に従事してきた。

 本書の主要部分をなす「ポルノグラフィと公民権」は、その2人が、ポルノグラフィの被害者を救済する目的で1980年代以降制定を目指してきた「反ポルノグラフィ公民権条例」の意義とねらいを、一般読者に向けて解説したブックレットであり、2人が最初に条例制定を目指したミネソタ州ミネアポリスの反ポルノ市民団体の手で、1988年に出版・配布されたものである。

  ポルノグラフィの生み出す被害

 ポルノグラフィは、表現の自由の問題だと言われてきた。また社会の性モラルの問題だと言われてきた。しかしポルノグラフィは女性に対する性的虐待にかかわる問題であり、女性のセクシュアリティを支配する男の権力にかかわる問題である。それは「わいせつ」の問題ではなく、性的虐待と性差別の問題である。

 ポルノグラフィは、まず第1に、その制作過程において女性の性的人格権を侵害し、しばしばあからさまな暴力や性的虐待を加える。ポルノグラフィの出演女性は、「ポルノグラフィの最初の被害者」(本書58頁)である。ポルノグラフィは第2に、普遍的に女性の性的平等権を掘り崩し、女性を二流市民化する。それは、女性がこの社会で安全に生きる権利を侵害する。

 ポルノグラフィは女性を、一方的に男の性的客体ないし性的フェティッシュとして、そしてそれのみとして扱う。そこで女性は膣であり乳房であり脚あり、つまりただの「女体」でしかない。しかもそれは、男が支配すべき対象として扱われている。またポルノグラフィは、女性に対する殴打・虐待、レイプ、セクシャル・ハラスメントを、性的快楽を約束するセックスとして描く。それどころか、それらを女性は多かれ少なかれ自ら快楽として受け入れるというメッセージを発しさえする。これらは、明確な男権社会のイデオロギーである(ことに最後のものは「レイプ神話」として非常に破壊的なものである)。

 著者たちが述べるように、ポルノグラフィがもたらすのは「レイプ、女性殴打、セクシャル・ハラスメント、子どもへの性的虐待、強制的性行為、強制売春、望まぬ性的モノ化、二級の地位」である(本書31頁)。つまり女性にとって、安全な生存と平等という基本的権利が、ポルノグラフィによって侵されるのである。

  現実を変えるための方法

 本書は、女性の生存・平等にとっていかにポルノが脅威となっているかを示すのみならず、この現実を変えるための方法をも提示している。それが、「反ポルノグラフィ公民権条例」の制定である。これは、ポルノ(もしくはその制作)によって性的その他の被害を受けた女性に、その被害を民事的に救済する可能性を与えるものであり、被害者に力を与える(enpower)。そしておそらくは、それを通じて、女性の平等権の実現にとって脅威となるポルノ産業の席巻を押さえることをも可能とする。

 ポルノにおける暴力と現実世界における暴力との関係は、長年の間、学者をも巻き込んで論じられてきた。しかしこれは結局のところ、一般的な形では理論的に証明することは困難である。だが重要なのは、実際にポルノが(その制作過程を含め)性的虐待やレイプ、性行為の強制、セクシャル・ハラスメント等に結びつくケースが、明らかにあるという事実である。そのかぎり、それらを引き起こしたポルノならびにポルノ産業は、その被害事実に対して当然の責任を負わなければならない。

 これは「検閲」の問題ではない。マッキノンらの「反ポルノ条例」は公権力による事前規制をめざしたものはなく(事前抑制的な効果はもつとしても)、実際の被害事実に基づく、被害者自身による賠償請求と差止請求を可能にするものである。言論や表現は社会的なものであるが、その被害も社会的なものである以上、言論・表現には責任が伴うことを求めるのは当然のことである。だがそのことと、表現の自由の保障とは何ら矛盾することではない。

 「反ポルノ条例は誰からも『権利』を奪うものではない。ポルノ業者から女性を傷つける権力を奪うものである」(本書136頁)。

  日本にとっての意義

 ポルノグラフィの被害は、すでに述べたように、ポルノ業者によるものと個々の男性によるものの両方がある。この日本においても、ポルノ業者による出演女性に対する性暴力はきわめて深刻であり、今日ポルノ・ビデオ制作現場の一部は、合法的に性暴力を行なう手段と化していると考えられる。「日本ビデオ倫理協会(ビデ倫)」の自主審査を経てレンタルビデオ店に出回っているアダルト・ビデオの中でさえ、「リアルなレイプシーンの追求」を売りにし、1人の出演女性を10人近い男性出演者・スタッフが取り囲み、女性が必死に撮影拒否を訴える中で、殴る、蹴る、嘔吐物をかけるといった暴行・虐待を繰り返し、性行為を行なうといったものがある。AV市場はすでにビデ倫の審査を受けない「インディーズ」と呼ばれる中小の制作会社のビデオによって大半を占められており、内容が無審査で流通しているそれらにおいては、女性にしたい放題の暴行・虐待・陵辱が行なわれている。こうしたきわめて女性差別的で暴力的なポルノグラフィが受容される背景には、よりソフトなポルノグラフィが社会的に蔓延し、受容されていることがあると考えられる。

 個々の男性によるポルノグラフィを利用した性暴力も同様に深刻である。2000年10月に10件の強姦、殺人その他の容疑で逮捕・起訴された「ルーシーさん事件」の容疑者は、薬物を使って強姦を繰り返し、強姦シーンを100本以上のビデオに撮影していたとされる。2001年9月、高速道路で手錠をかけられた女子中学生が死亡した事件で逮捕された容疑者は、少女をホテルに連れ込み強姦するシーンをビデオ撮影することが目的だったと供述し、6月に女子高校生を同じ手口で強姦しビデオ撮影していたことが判明したとされる。

 言うまでもなく、これらは現実に生じている同様の性犯罪行為の氷山の一角にすぎない。ポルノ被害が表面化しえないのは、ポルノ業者による徹底的な暴力・脅迫と社会の女性差別構造・意識とによってである。被害者にまったく「落ち度」のない強姦被害の場合でも、「貞操を奪われた」と社会にみなされる被害者は容易に名乗り出ることができない。まして「貞操を自ら売り渡した」とみなされるAV出演女性の性被害の訴えが社会にまともに受け入れられる余地はほとんどない。騙されてAVに出演させられ、強姦を「作品」にされた女性が、自ら命を絶つ例も知られている。

 ポルノグラフィに固有の恐ろしい特質は、本来訴えられた性犯罪行為の証拠とされるべき映像や撮影行為そのものが、それとは正反対に、性犯罪はなかったことの証拠とされる点にある。AVに「出演」した女性が後に撮影内容に同意していなかった、あるいは同意の範囲を超えた行為を強要されたと訴え出たとしても、「レイプを演出する手法」 と正当化され、映像が「レイプ作品」となることによって女性の訴えを無効にする証拠とされてしまう。さらにそれは「表現」行為として社会によって手厚く保護されるのである。また、個々の男性による強姦事件において、被害女性の「生き延びるために無抵抗を装った」という証言に反して、女性の無抵抗な性行為シーンがビデオに撮影されたことが「合意」による性行為の証拠として採用され、不起訴になるといった究極の背理が、現実に生じている。さまざまな性暴力被害が次々に社会問題化され、公的取り組みがなされる中、ポルノグラフィによる性暴力被害の実態とその被害者は、性差別社会の巨大な闇の中に放置されたままである。

 ドメスティック・バイオレンス(DV)防止法の制定にDV被害の蔓延の立証が必要であったように、ポルノグラフィの被害に対応するためには、ポルノ被害の実態が明らかにされる必要がある。アメリカや世界の潮流に学び、政府はポルノグラフィの被害実態についての公的な調査を行なうべきである。だが、DVの場合と同様、政府が主体的に動く可能性はほとんどありえない。まずは民間による調査活動が不可欠である。

 ポルノグラフィは、男性の暴力的なセクシュアリティ形成や、性暴力被害を無視・軽視し被害者を非難する「セカンドレイプ」を生む社会意識の構築にも深く関与している。また、性暴力を性的娯楽にするポルノグラフィの存在がある以上、性暴力被害者は被害を被害として訴えることが困難になる。マッキノンとドウォーキンらのアメリカでの運動の成果から学び、日本の法律上のさまざまな手段を用いて、ポルノグラフィという根深い性差別制度に対抗していくことが、21世紀に男女平等社会、「男女共同参画社会」を築く上で必要不可欠な課題である。

 なお、本書には、主要部分をなす「ポルノグラフィと公民権」以外にも、このテーマに関するマッキノンとドウォーキンの諸論文、および、マッキノンによる「日本語版序文」、さらに、カナダのバトラー判決をめぐる誤解を正すマッキノンとドウォーキンの声明なども収録されている。
更新2007/10/02 - mrt-s
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被害事実をご存じの方は、情報をお寄せください
ポルノグラフィによる人権侵害は想像よりはるかにたくさん生じていると考えられます。例えば、市販されているポルノ・ビデオからは、制作過程ですでにひどい人権侵害が行なわれていることを見てとることができます。

私たちは、ポルノグラフィによる被害を防止し被害者を支援する制度づくりをめざして、ポルノグラフィによる人権侵害の実態を明らかにする活動に取り組んでいます。被害事実をご存じの方は、どのような情報でもかまいませんので、研究会までお寄せください。
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