ポルノ・買春問題研究会
論文資料集10
2010年度の論文資料集10号。詳細はこちらより
 
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 現在、私たちの会では、ポルノグラフィの制作・流通・消費の過程で生み出されるさまざまな被害の問題に取り組んでいます。この「ポルノ被害」の問題は、これまで日本のフェミニズムの中で、真剣に取り組むべき「女性の人権問題」とはあまりみなされてこなかったこと。たとえば、ドメスティック・バイオレンスは、かつては夫婦喧嘩の一種とみなされ、家庭内の問題であり、市民社会が介入したり、ましてや警察や裁判所が介入するべき問題とは考えられませんでした。

 また、セクシュアル・ハラスメントもかつては、職場での恋愛問題のもつれとみなされ、女性にとっての明白な人権侵害であるとはみなされてきませんでした。たいていの場合、被害者たる女性が我慢するか職場を辞めていくかという形で処理されてきました。それまで、これらの事象は「名前のない問題」であり、構造的なジェンダー間の不平等に起因する被害(「ジェンダー被害」)であるとはみなされてきませんでした。フェミニズム運動は、これらの「名前のない問題」に対するしかるべき言葉を与え、それを普及することによって、世論を変え、これらの事象がまぎれもなく構造的「被害」であり、「女性に対する人権侵害」であることを社会的に認知させてきたものであります。

 そして、これまで名づけられて来なかったジェンダー被害の一つとして、私たちが問題にしている「ポルノ被害」があります。これまで、このポルノ被害の問題は、「表現の自由」の問題として、あるいは単なるファンタジーやフィクションとして、あるいは多様な性的嗜好の問題として、あるいは道徳や風俗の問題として、別の名前が与えられてきました。あるいは、そもそも何の問題もない自由の行為として、性的自己表現ないし自己実現の一環としてみなされてきました。

 しかし、私たちは、これは、ドメスティック・バイオレンスやセクシュアル・ハラスメントなどと同じく、ジェンダー間の構造的不平等に起因する被害であり、しばしば暴力そのものであり、明白な人権侵害であるとみなしています。

 たとえば、かつてのバクシーシ山下による『女犯』シリーズや最近のバッキービジュアルプランニング(現在はコレクター)の『問答無用強制子宮破壊』シリーズなどの実録もの暴力ポルノでは、女優を騙して集団で暴行し、レイプし、げろをかけ、髪の毛を持って引きずりまわし、風呂の水に顔を突っ込む、殴る蹴る、窒息させる、火をつける、等々の暴力行為が延々と何時間も(時には数日かけて)行なわれ、それが2時間のビデオに編集され、「表現物」として世に送られ、宮台真司をはじめとする評論家や学者たちによって絶賛されています。

 あるいは、アダルトビデオが無理矢理パートナーによって見せられたり、そこでの行為を模倣させられたりする。あるいは、恋人や夫婦であったときに撮った裸体写真や性行為の写真・ビデオなどが、後に脅迫の材料に使われたり、ネットで流されたりする。また、パソコンで有名人や知人の顔写真とポルノ女優の裸体とが合成され、それがネットで流される(ポルノコラージュ)。こうしたさまざまな被害を私たちは総称して「ポルノ被害」と呼んでいます。

 これらの被害は、ごくわずかな不運な人だけが遭っている被害と思われがちだが、実際は、この犯罪の被害者、ないし潜在的被害者は実に大量である。その典型例が、今回の私たちの報告のテーマとなっている「盗撮」(性的盗撮)というポルノ被害です。

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 温泉・銭湯(最近のスーパー銭湯を含む)・フィットネスクラブ・スポーツジムなどの脱衣所・更衣室・浴場に、あるいはデパート・喫茶店・学校・駅などのトイレに、あるいはラブホテルの部屋などに仕掛けられた精密な盗撮機によって、裸体や下着姿や排泄行為や性行為などが撮影されます。あるいは、それが、犯罪者個人の楽しみとなるだけでなく、編集されて、「盗撮ものポルノ」として市場に売り出されています。この種の盗撮ものには、わざわざ偽のイベントをでっちあげて、盗撮機があらゆるところに設置された更衣室をつくって、集めた若い女性をそこで着替えさせ、その模様を延々と撮影するという手の込んだものもあれば、普通に秋葉原で売っている超小型の盗撮機を使って、ごく身近な対象を盗撮するという場合も存在します。

 こうした盗撮行為は、常識的に考えれば明白な犯罪行為として罰せられるべきであると思われますが、実際には現在の日本では、これを取り締まる全国法は存在せず、せいぜい各都道府県にある迷惑防止条例で、電車内や公道などの公共の場でのあからさまな盗撮行為(スカートの中をビデオやデジカメや携帯電話などで撮る行為)が禁止されている程度です。重大な犯罪ないし人権侵害行為ではなく、単なる「迷惑行為」として分類されていること自体も問題であり、その罰則も、そうした認識に一致して、たいていの場合、少額の罰金ですみます。

 それ以外には、たとえば、公衆浴場などに盗撮機を仕掛けて盗撮するような場合は、迷惑防止条例の対象外であり、それ自体を取り締まる法律が存在しないのが現状です。それゆえ、建造物侵入罪などの他の罪状で取り締まるしかありません。

 また、すでに流通してしまった「盗撮ものポルノ」に対する法的対処としては、被害者本人が訴え出て、名誉毀損などで訴えるしか手がない現状にあります。

 しかし、この盗撮というポルノ犯罪は、「女性であれば誰でも被害にあう可能性がある」というその普遍性からしても、それによって人格権やプライバシー権が侵害される程度の大きさからしても、きわめて重大な人権侵害であるとみなされるべきであり、それに見合った法的対処がとられるべき問題です。

私たちの取るべき課題

  1.世論の喚起

 まず何よりも、世論の喚起が重大であり、これなしにはどんな問題の解決もありえないと考えます。これまでも、多くのジェンダー被害(セクシュアル・ハラスメントやドメスティック・バイオレンスなど)が目に見えないものから目に見えるものになり、法律的にも制度的にも対処されるようになったのは、何よりも下からの運動を通じた世論の喚起があったからこそです。そして、盗撮ポルノによる被害は、上記の諸被害に勝るとも劣らない普遍性と深刻さを有しています。

 膨大な盗撮ポルノの市場が存在している現実を直視するべきである。1本の盗撮ものビデオ(およびDVD)にだいたい数十人から数百人の盗撮画像が使用されており、毎年数十本から数百本もの盗撮ポルノが表市場および裏市場に出まわっていると考えれば、被害者の数はざっと毎年、数百人から数万人におよぶことになります。

 ポルノ被害としての盗撮被害が、これほど多くの被害者を出している重大犯罪であり、深刻な人権侵害であるという認識を社会が共有しなければならないし、それなしには現状を本当には変えることはできない。

 そして、世論を変えるきっかけは、やはり運動側の認識であり、人権問題やフェミニズムの問題に取り組んでいるあらゆる団体、運動、個人がこの問題の重要性、緊急性を認識し、そのことを社会に向けて訴えなければなりません。

  2.施設管理者の責任

 盗撮を防止するには、盗撮を仕掛ける対象とされている各種の店舗や施設や建物の管理者がきちんとした防犯意識を持ち、利用者の人権を守る措置、しかるべき盗撮対策を取ることが必要です。しかし、現状はその正反対であり、アンケートの結果にも示されているように、店舗や施設などの管理者、責任者の意識は低く、たとえ盗撮被害があってもそれを公表しないという姿勢を保っていますし、また盗撮対策をほとんどが行なっておらず、また行なう予定もないという現状にあります。これは、被害のことや盗撮対策のことを公表することで店や施設側のイメージダウンにつながり、客足が遠のくと考えているからです。

 「盗撮対策を取っていることを公表する→その店や施設では盗撮の可能性がある、あるいは盗撮されたことがあると世間から見られる→したがってイメージダウンになる」という論理がまかり通ってますが、これほどナンセンスな議論はありません。

 本来は店や施設側がきちんとした盗撮対策を取っていることで信頼度が高まり、それをアピールすることでイメージ的にもプラスになるはずです。この点での、店や施設を管理している側の意識改革が非常に重要であり、かつそうした意識改革は可能だと考えています。同じような誤った意識は、かつて大学などでのセクシュアル・ハラスメントに関しても存在しました。

 「セクハラ対策を取っている→その大学にはセクハラが存在する、あるいはセクハラが起こる可能性があると世間から見られる→したがって大学のイメージダウンになる」という論理を少なからぬ大学管理者が取り、それゆえなかなか大学でのセクハラ対策が進みませんでした。

 しかし、今では、ほとんどすべての大学でセクハラに関するガイドラインや相談窓口などが存在し、セクハラ対策を取っていない大学こそがセクハラの横行している大学であるとみなされるようになっています。

 盗撮はすでにほとんどすべての店や施設に蔓延しており、盗撮対策を管理者側が取ることはまさに、管理者としての必要最低限の義務であり責任になります。

 また、現在のそういった管理者側のいい加減な態度につけこんで、加害者側が盗撮行為を積み重ねている現状にある。運動の側が、店や施設側に盗撮対策の現状をアンケートを行ったり、公開質問状を送ることで、盗撮対策を取るのが当然なのだという意識を作りだしていく必要があります。

  3.法的課題

 まず第1に、裸体や下着姿などの盗撮を単なる「迷惑行為」としてや、建造物侵入罪としてではなく、それ自体を明確な人権侵害行為、性的人格権の侵害として、したがって重大な犯罪行為として厳しく取り締まる法律が必要であります。

 第2に、また、そうした法律では、単に盗撮を犯罪として禁止し、厳しい罰則を課すだけでなく、施設の管理者に対して有効な盗撮対策を法的に義務化するべきでしょう。

 第3に、どんなに言葉の上で盗撮を禁止しても、盗撮という犯罪においては、被害者が特定されない場合が多いし、あるいは被害者が名乗り出にくいという構造的問題があります。この問題がクリアされないかぎり、盗撮犯罪はなくならないと思われます。

 第4に、ビデオやDVDやインターネットなどですでに流布してしまっている盗撮画像を法的にどうするのかという大きな問題があります。当然、被害者による流通差し止め措置の訴えが法的に保証されるべきですが、この場合も、一般のポルノビデオなどと異なり、被害者自身が自分が被害者であることに気づいていない場合がほとんどです。

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  4.盗撮機器の販売規制

 現在、秋葉原などできわめて容易に小型の盗撮機器を購入することができます。盗撮が刑法上の犯罪とされるならば、当然、盗撮機器自体の売買・流通も規制の対象とされるべきでしょう。たとえば、銃は、その使用のみならず、その販売・所持自体も違法とされています。もちろん、違法な目的以外で盗撮機器を用いる可能性も十分にあります。犯罪防止の目的などです。したがって、銃器と同じように、その販売・所持そのものを違法とするわけにはいかないので、購入時に身分証明書を提出させ、購入目的を明記させ、登録するようにし、誰がどのような目的で盗撮機器を持っているかがわかるようにするべきでしょう。

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 また逆に、盗撮機器を発見する装置はより安くより入手しやすいものになるべきでしょう。現在、専門家や業者などに部屋の中の盗撮機器を探してもらうと、かなり高額な費用が請求されます。これでは、経済的に余裕のない人々は気軽に頼めないでしょう。

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