ポルノ・買春問題研究会
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東京都青少年健全育成条例改正案をどう見るべきか?
「わいせつ」基準から「子どもの人権」基準へ

私たちの基本的観点

 現在、東京都青少年健全育成条例改正案をめぐって大きな議論が巻き起こり、大規模な反対運動が組織され、同改正案は2010年6月16日の本会議で否決されるに至りました。この改正案には、児童ポルノ擁護派の人々だけでなく、著名な漫画家、出版労連、東京弁護士会(第一、第二)、日弁連会長、民主党、共産党、市民派などもこぞって反対に回りました。

 しかし、日本で大量に制作されている残虐なバーチャル子どもポルノ、とりわけ漫画・アニメ・CGによる残虐な子どもポルノに対する国内外の世論はしだいに厳しいものになっており、日本の政権や自治体もそれに対処せざるをえない状況が生まれています。そうした中で、保守的ないしパターナリスティック(保護者的)な発想やアプローチにもとづいたポルノ規制的法案が提案される事態は、今後とも十分起こりうることです。

 したがって、保守的な政府・自治体が出したからとにかく反対だという機械的な態度は成り立たないというべきでしょう。DV防止法も児童ポルノ・買春禁止法も(いずれもまったく不十分なものですが)、保守政権のもとで全員一致で採択されたものであり、政権そのものの性格と国際的な人権擁護の流れとを区別して考える必要があります。ましてや、何であれ公的機関による性表現規制は許されないなどというのは、現代人権論の立場からすればまったく時代遅れの態度であると言わざるをえません。

 したがって、機械的な反発や「表現の自由」論を単純に繰り返すのではなく、保守派の政権や自治体であっても何らかの規制案が出てきた場合、人権とフェミニズムの観点に立つ側はどのような対応をするべきなのかを具体的に考える必要があります。
 基本的な判断基準は、

  • (1)それが女性および子どもの人権の観点から立案されているかどうか、
  • (2)法の実効性があるかどうか

です。この基本的観点から是々非々で取り組む必要があると私たちは考えます。では、これらの観点から見た場合、今回の東京都の青少年健全育成条例改正案をどのように評価するべきでしょうか?

具体的な改正点と主要な論点

 今回の改正案において最も論議を呼んだのは、「非実在青少年性的描写物」という概念を新たにつくり出し、その上で18歳未満であると認識できるバーチャルなものに関して「みだりに性的対象として肯定的に描写するもの」を自主規制の対象にしたことと、その中でもとくに、「強姦など著しく社会的規範に反する行為を肯定的に描写したもの」を、知事による「不健全図書」指定の対象としたことです。

 その他にも、この改正案には、実在の児童ポルノの単純所持をしない都民の責務を定めたり(ただし罰則はない)、また13歳未満の子どもに関しては下着や水着などを着衣していても「みだりに性的対象として描写したもの」(いわゆる「着エロ」)に関しては、子どもをみだりに出演させないよう業者と保護者に求める、フィルタリングの導入をより強く求める、などの重要な内容も含まれています。

 しかし、いちばん焦点になったのはやはり、最初の2つ、すなわち「非実在青少年性的描写物」をめぐる諸規定であるのは言うまでもありません。バーチャルな児童ポルノは実在の子どもが使われていないのだから被害者はいない、したがって、それを規制するのは「表現の自由」に反するという論理が左右問わず振りまかれ、多くの人々がそれを受け入れています。しかし、はたしてそうでしょうか?

ポルノ被害とバーチャルな児童ポルノ

 もちろん、実在の子どもが使われている児童ポルノは言語道断ですが、実在の子どもが使われていないから被害者がいないというのはナンセンスな意見です。被害者はいないどころではありません。

  • 第1に、子どもを「みだりに性的対象」にし、子どもたちに対する「強姦など著しく社会的規範に反する行為を肯定的に描写する」ことは、すべての子どもと、そしてすべての女性(なぜならそこで描かれている子どものほとんどが少女だから)の人権を侵害するものです。
  • 第2に、そうしたものを直接目にする子どもが受ける恐怖、衝撃、トラウマは十分に被害を構成します。
  • 第3に、そうしたバーチャルな児童ポルノを反復継続的に鑑賞して実際に性犯罪に走る男たちは少数ながら存在するのであり、その犯罪の被害者もまたこの児童ポルノの被害者であると言えます。

 これらすべての被害(私たちはそれをポルノ被害と呼んでいます)は、ポルノの被写体が実在だろうが非実在だろうが厳然と存在する被害であり、実在の子どもが使われている場合には、その子どもが直接に受ける被害というもう一つの重大な被害が生まれるのです。

 たとえば、黒人を白人の奴隷にし、彼らを拷問したりリンチしたりすることが楽しい娯楽であり、それが黒人にふさわしい扱いであり、黒人もそれを望んでいると描くような漫画やアニメやテレビゲームが世の中にあふれているとしたら、それによってすべての黒人が被害を受けているのではないでしょうか? 実在の黒人が使われてさえいなければ、被害は存在しないと言えるでしょうか? そのような漫画やアニメやゲームを毎日楽しんでいる白人が、黒人に対して何の差別的・暴力的振る舞いにも出ないなどと、なぜ言えるのでしょうか? そのような漫画やアニメを実際に目にした黒人が受ける衝撃と恐怖は、明らかに被害と言えるのではないでしょうか?

「わいせつ」基準から「子どもの人権」基準へ

 以上の観点からするなら、今回の条例改正案はどのように解釈されるべきでしょうか? 重要なのは、実は、現行の青少年健全育成条例ではすでに、実在、非実在の区別なく、「性的感情を刺激するもの」は自主規制の対象とされ、「著しく性的感情を刺激するもの」は不健全図書の指定対象になっていることです。

 現在、月に3〜4冊程度が不健全図書指定され、年間に30〜40冊程度が指定されていますが、その多くは漫画です。ですから、これまで実写だけだったのに非実写にまで規制が拡大されたというのはまったくの誤解です。
(ちなみに東京都では、大阪府などほとんどの自治体が採用している包括指定制度をとっておらず、特別の審査会議による検討と審議を経た上で個別に不健全図書が指定される個別指定制度が採用されています)

 この「性的感情を刺激する」という規定は非常に曖昧で十分広範であるというだけでなく、人権的観点が基本的に入っていません。平等な関係にある当事者が相互的な性愛にもとづいて相手の人格を尊重しながら性的感情を刺激することは、何か問題でしょうか?

「性的感情を刺激」という規定こそ、むしろ「表現の自由」という観点からは問題になりうるものです(今回の改正案に反対する人たちの一部からは、現行法で十分、問題になっているものも規制できるのだから改正は必要ないと言っています。驚くべき発言です。これは、人権が全く考慮されていない基準で、表現規制の対象を広げることを推奨するものです)。

 そして、この規定はあまりも「広範」であるため、実際の運用においては、結局、刑法の「わいせつ」条項の伝統的解釈に添った形で解釈され、性器や体液などを露骨にリアルに描いているものに限定されてしまっています。つまり、子どもを性暴力の対象としていても、性器がぼかされ体液などが露骨に描かれていなければ、不健全図書の対象にならないのです。

 それに対して、今回の改正案においては、このような曖昧で広範な規定に代わって、「子どもをみだりに性的対象にすること」と「強姦などを肯定的に描写すること」という、指示する内容がきわめて明確で、しかも、不十分ながら子どもの人権を基準とする表現になっています。(元警察官の方によれば、現行法の基準が曖昧であるために、警察は児童の裸体がポルノとして使用されていても「性器自体は見えていないので、これはポルノではないのでは?」と、業者の摘発を躊躇してしまいます)

 「性的感情を刺激すること」それ自体は人権侵害ではありませんが、「子どもをみだりに性的対象にすること」と「子どもへの強姦などを肯定的に描写すること」は明らかに子どもへの人権侵害です(そしてすでに述べたように、子どもの多くは女児ですので、女性への人権侵害でもあります)。これは、不十分ながら、性表現規制における従来の「わいせつ」基準から「人権」基準への転換を意味しています。たとえその転換が、青少年の健全育成というパターナリスティックな条例の枠内でなされているとしても、です。このことの意味をけっして過小評価するべきではありません。

ゾーニングという手法の問題点

 最後に、今回の改正案を含め、そもそも青少年健全育成条例そのものが「ゾーニング」という政策手法にもとづいている点について検討しましょう。もともとゾーニングとは「土地利用規制」を意味するもので、今日では、もっと広く、年齢や性別を基準に有害物へのアクセスや曝露を規制する政策手段の意味で使われています。タバコで言えば、20才未満には売らないこと(アクセス規制)、および分煙(曝露規制)などに相当します。青少年健全育成条例においては、業者の自主規制(包装を厳重にする、陳列棚を別にする、18禁のマークを入れるの3つ)と知事による不健全図書指定というゾーニングが定められています。ではこのようなゾーニングは法的に実効性があるのでしょうか?

 まず、ゾーニングという手法そのものの是非について考えてみましょう。キャサリン・マッキノンが反ポルノ公民権条例を起草したきっかけは、ポルノをゾーニングするという政策手段についてアドバイスを求められたことでした。マッキノンは、そのような手段は、ポルノの制作における被害をはじめとする様々な被害のほとんどに対して取り組むことができず、ただポルノを人目につかないところに隠すだけであって、何ら問題の解決にならないとして反対し、それに代わって反ポルノ公民権条例を起草したのです。私たちはこの立場を基本的に共有しています。

 しかしながら、バーチャルなポルノに関して刑法のわいせつ物頒布罪しか規制手段がない日本の現状においては(そしてわいせつ物頒布罪はほとんど機能していない)、まったく不十分なゾーニングといえども一定の意味があると言えます。というのも、子どもが、子どもをみだりに性的対象とするポルノを目にしたり子供への強姦を肯定するポルノを目にして受ける被害は深刻だからです。したがって、このような子どもの受ける環境ポルノ被害を防止するというゾーニングには一定の意味があります。それと同時に、ゾーニングという手法それ自体は不十分だとしても、非実写といえども子どもポルノは有害で、野放しにされるべきではないという姿勢を自治体が示すこと自体にも大きな意味があると言えます。

 次のその実効性についてですが、これはかなり不十分であると言えるでしょう。そもそも今日のインターネット時代には、実物の販売現場だけでゾーニング規制しても、かなり有効性に乏しいと言えます(今回の改正案ではフィルタリングの導入をより強く推進する規定が盛り込まれていますが、それでもその実効性に限界があるのは明らかです)。それ以外の点でも、今回の改正案、あるいはもともとの青少年健全育成条例には多くの限界があります。

  • 第1に、「表示」「包装」「陳列区分」というゾーニングの具体的手法については改善の余地があります。とくに最後の「陳列区分」に関しては売り場をただ「成人雑誌コーナー」に分けるだけでなく、コンビニや町の小さな本屋など、売り場面積が一定水準以下である場合には陳列そのものを禁止するべきでしょう。大きな売り場面積の店の場合には、コーナーではなく、部屋そのものを分けて(レンタルビデオ屋の場合にはよく見られるように)、そこへの子どもの立ち入りをできないようにするべきです。
  • 第2に、改正案では、せっかく不十分ながらわいせつ基準から子どもの人権基準へとゾーニング基準が改善されたのに、描かれている対象が「青少年」で「非実写」に限定されています。もちろん、描かれている対象が「青少年」でかつ「実写」である場合には、これはすでに児童ポルノ買春禁止法違反になるので、ゾーニングではなく刑罰の対象になりますが、描かれている対象が成人である場合には、実写も非実写もともにゾーニング対象にならないという大きな問題があります。子どもが暴力的ポルノを目撃することで受ける被害は、描かれている対象が成人であっても重大であるし、非実写であっても重大です(実写の場合はもっと深刻であると言えるでしょう)。
    したがって、子どもの被害防止という人権的観点からゾーニングするのであれば、指定図書類の基準である「強姦など著しく社会的規範に反する行為を肯定的に描写したもの」という規定に関しては、描かれている対象が「非実写」「青少年」であるものに限定するべきではなく、「非実写青少年」プラス「実写成人」と「非実写成人」をも加えるべきです。
  • 第3に、明らかに描かれている対象が青少年であるにもかかわらず、都の説明では、年齢設定が名目的に18歳以上であれば規制対象にならないとなっています(都が出している「質問回答集」を参照)。
     たとえば、国際的に問題にされた『レイプレイ』でも、明らかに視覚的には18歳未満の少女がレイプの対象とされていますが、ゲームの但し書きでは、「登場人物はすべて18歳以上です」とアリバイ的に書かれています。都の説明ではこの『レイプレイ』でさえゾーニング対象にならないことになるでしょう。今回の改正案がたとえ通ったとしても、業者はいっせいに名目上「本作品の登場人物はすべて18歳以上です」という但し書きをつけるでしょうから、ほとんど無意味な規定と化すかもしれません。
     したがって、指定図書類の基準に関しては、そもそも18歳未満かどうかという基準そのものをなくすことによってこの問題を取り除くことが必要であり(第2の問題点で指摘したように、描かれる対象の年齢がどういう設定であっても、強姦等を肯定的に描くものをゾーニング対象とする)、表示図書類の基準に関しては、名目上の設定に関わらず、内容的な設定や視覚的表現の実質を基準にして運用するべきでしょう。

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